なんでもない日だけれど

改が風呂から上がって、ごろごろとベッドで雑誌を読んでいたときだった。唐突に携帯が鳴った。
携帯を開いて光る画面を見ると「闇野カゲト」の文字。彼が直接電話してくるときと言ったら、週末デートの約束をする時ぐらいだ。平日の夜に突然何か言いたいことでもできたのだろうかと改は思った。このようなことは幾度かあった。かといって、改にとっては利益があるような内容ではない。「今日は13日の金曜日」だとか「今日は何とかの神話では何かが生まれた日」だとか闇野の好きなオカルト的なものや神話にちなんだものとかばかりだ。
過去の経験からどうでもいいことだろうと分かっていても、無視するわけにはいかないので、しぶしぶ改は応答した。

「もしもし?」
『改?今日は何のか日知ってるか?』
「知らない」
やはりそうだった。8月3日がなんだというのだ。
『8と3には別の言い方があるだろう?』
「8は…やっつ。3は、み…?」
とぶつぶつと改が呟いた。
『そうだな。それでだ、「や」と「み」を繋げると』
「あぁ、『闇の日』と言いたいのか…全く…」
確かに闇野の名前には「闇」と付くが、誕生日でもなければ、付き合い始めた日でもない。別にどうでもいいことだ。
「だからどうした?」
『折角だから、何か一言欲しい』
「はぁ?!!」
闇の日だから闇野の日で誕生日と同等とでもみなしているのだろうか。
「闇の日だからなんだっていうんだ!別に何でもない日だろっ!!」
『…そうか…残念だな』
「う…」
付き合ってて、闇野は無愛想ではあるもののやはり人間、つまり感情がある。大きく変化はしないものの、改には闇野の声の抑揚などで何となくではあるが、彼が今どういう気持ちか分かるようになった。平坦ではあるものの、先ほどの声は本当に残念に思っている声なのだ。
しぶしぶ改は声を吐き出した。
「あぁ…もう!分かったよ!!ちょっと待てよ…」
何でもない日に改まってメッセージを送るとするとなんというべきか。「闇の日おめでとう」と言うのは何を祝っているのやらとお門違いな気がする。
うーんうーんと考えて、ぱっと浮かんだ一言。しかし、これは恥ずかしすぎる。でも、これしかまっすぐに気持ちを伝えられる言葉はない気もする。でも、でも…という逆説ばかりで話が進まない。意を決して改は通話口に口を近づけた。

「その…好きだから、これからもよろしく…ごめん、こんなことしか言えなくて」

『ありがとう…とても嬉しい。それじゃあ、おやすみ』

闇野の声は心底嬉しそうな声だった。




―――――
2011.8.3
闇の日なので、何かせねばっ!と思って闇改小説うp。
ツンデレだけど、あらたんは闇野のこと本当に好きですよええ、はい。

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