非ロマンチック七夕

初めて知ったんだが、七月七日、この日は「七夕」というらしい。引き離された織姫と彦星というカップルが会える年に一度の日と教えてもらった。
別にロマンチックだなあ・・・とか思わなかった(だって、こいつらが引き離されたのは、イチャつきすぎたからって自業自得じゃないか?)けど、この日は短冊という長方形の紙に色々と願い事を書く習慣もある。毎日の星座占いが当たるとも限らないように、これもまた願いがかなうわけではないが、気休めのつもりやクセのように誰しもが願い事を書く。

「エスカバー!お前、短冊になんて書いたんだ?!」
「うっせーなぁ・・・」
鬱陶しそうエスカバが俺を避ける。
「別に変なモンでもなんでもねぇよ。つーか、人の願いごと覗こうとするなんて人の日記覗くみてぇで、趣味わりぃとか思わねぇのか?」
「見せられない願い事書く奴の方が悪い」

イナズマジャパン宿舎入り口に立てられた青々しい竹がある。
これはマネージャーが丁度七夕だからという理由で申請して持ってきてもらったんだってさ。
エスカバはそこにさっきから握っていた短冊を吊るした。
「えーっと・・・」
「見んなって言ってんだろ」
エスカバは諦めて俺が短冊を見るのに言及しなかった。諦めの良い奴め。
「うるさい奴らが少しは黙ってくれますように・・・?お前も大変だなぁー」
「自覚症状がないとは重症だな」
やめろと言ってやめる奴がいると思うか?居るわけねぇだろ。

ああだこうだ言いながら部屋に戻っていると、廊下で改とすれ違った。エスカバは「よぉ」ぐらいの挨拶を交わして改も「あぁ」って返した。手を見たら短冊が握られていた。
「改はなんて書いたんだ?」
俺が声をかけると、改はキッと俺を睨んできた。
「お前に教える筋合いなんかないっ!」
「へぇー何か恥ずかしいことでも書いてるのか?」
「そういうことを発想するお前の方が恥ずかしい」
吐き捨てるように改が言った。
改は口で言ってもどうにかならない相手だ。力づくで奪い取ってやろうと、俺は改の手首を取った。
「いった・・・なにすんだよ!!」
振り解こうと改は手をぶんぶんと振る。残念ながら、俺も軍人の端くれだから握力には自信ある。それなりに痛さが感じるくらいに力を込めてやっている。だから、改が抵抗しても手は振り解けなかった。
それがわかると改は、短冊をぐしゃぐしゃになるくらいに強く握った。
「ミストレ、やめろよ。みっともねぇ・・・」
エスカバが呆れたように言う。
「改が俺に抵抗するのが悪いんだよっ!」
好奇心を通り越して、歯向かって来た改をねじ伏せたいくらいの感情が沸き起こった。
短冊を奪ってやろうと手を伸ばしたその時だった。

「何をしている、ミストレ」

張りつめた糸を切るような刃のような声。
背後からバダップが近づいてきていた。

「ば、バダップ・・・」
改が安堵のような声を漏らす。
「離せ、ミストレ。今となっては我々はチームメイトだ。こんなところで喧嘩するのは無意味だろう?」
「・・・チッ」
ぱっと手を放す。エスカバが改に「大丈夫か?」と声をかけた。でも「なんでお前が先に助けてくれなかったんだよ!」と唾を飛ばす勢いで怒鳴られた。ざまぁみろ。
「お前のせいでせっかく書いた短冊が無駄になった・・・!」
ぐっしゃぐしゃになった短冊が改の手に収まっていた。
「お前なんかさっさと未来に帰れよ!」
俺に一喝して、逃げるように改は去って行った。
「何をしていたんだ・・・」
バダップの血のように赤い目が俺を睨む。本気で怒ってのかな、こりゃ・・・こいつ、改のこと気に入ってるし。俺もエスカバも同じだけど。
「んー・・・短冊の願い事見せろって言っただけだよ」
髪を弄びながら答えた。余裕を見せなかったら多分負けるから、そういう動作をした。
「その程度のことか・・・」
「だよなぁ・・・好きな奴いじめる小学生みてぇだよな」
「はいはい、俺も大人げないとは思ったさ」
たかが短冊ごときでキレたのは流石に子供っぽかったとは思うよ。でも、歯向かったのは改だからな。
「お前はそんなに改の願い事が知りたかったのか?」
「そうだよ」
しばらく黙って、バダップは口を開いた。
「教えてやる」
「なんでお前が知ってんだよ!」
「一緒に書いた」
これにはエスカバも驚いていた。何だよこいつ・・・抜け駆けかよ・・・。

ということで、バダップは改の願い事を俺たちに伝えた。

晩御飯は、七夕の天の川から連想しての流しそうめんだった。スカウト、引き抜きその他モロモロでチームメイトになったメンツがぞろぞろと集まり、竹をぶった切って作られたレールみたいなやつにばんばんそうめんを流しまくった。

「あーらたっ」
「今忙しいんだ。あとにしてくれ。あと俺の横に立つな、俺の晩御飯を取るな」
相変わらず、口が減らないなぁ・・・。まぁ、そんな改の暴言を無視して俺は横に立った。
「立つなって言っただろ!」
そうめんを取られるのが嫌らしい。厚意を見せて、振ってきたそうめんをすくって、「ほら」と箸を改の目の前に持ってくると「いらない」と言って次の麺に手を伸ばした。
「そういえばさー、短冊の内容聞いちゃった」
「は?!」
改は間抜けな声を上げた。
「ちょっと待てよ!!誰が言ったんだ!!」
顔を赤くして、俺にガンガン問い詰めてくる。
「バダップ」
と犯人を言うと、改は「アイツか・・・」とどうしようもないなと諦めたような表情になった。
「あの願い事は、エスカバとバダップに向けて書いたんだよ!お前は、さっさと未来に帰れ。親衛隊の皆が寂しがってんじゃないのか?」
「べっつにー。親衛隊って言っても、俺の好きな子ばっかじゃないわけだし」
今は改が好きだから、帰る気ないね。っていうか、一緒に来いよ、未来に。
「俺、改のそういうとこ好きだよ。素直じゃないところ」
耳元で囁いて、そのままほっぺにキスを送った。
「・・・っ・・・帰れこの変態!!」
ばっしゃーんと派手にめんつゆをぶちまけられた。


ちなみに、改の願い事。短冊には『オーガの連中が無事に未来に帰れますように』と大きく書かれていたらしい。でも、改はバダップに「でも、俺は折角仲間になれたんだから、わがままになるけど、お前らともう少し長くいたいな」と言っていたらしい。
素直じゃないよなぁ・・・全く。




――――
2011.7.7
間に合った!!会話文であらたん総受けにしようとおもったけど、思いついたのがミス改だったというね。でも微妙にバダ改だね。
ミストレに対しては厳しいあらたんでしたとさ。

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