不器用な愛情と感謝

「ゲーセンに行きたい。」
闇野カゲトは、そう言った。彼の隣にいた下鶴改は、「どこへ行きたい?」と聞いた数十秒前の自分を恨んだ。それは一番聞きたくなかった言葉だ。

新しいスパイクが欲しかったので改は闇野と一緒に街の大きいスポーツショップに出かけた。実際のところ、二人とも付き合っているのでデート気分である。

目的のスパイクも手に入れ、ファーストフード店で昼食を取り、特に用もなくなったので、付き合ってくれた闇野の行きたい所に行こうと先の質問をしたら、ゲームセンターだった。
改自身はゲーム嫌いではない。ハードもいくつか持ってるし、気になるソフトもチェックして買っている。ゲームセンターのギラギラした装飾や騒音は決して好きとは言わないが、平気だった。御影専農の同級生とも、たまに寄ったりしている。

「もう少しで、ランクが上がるんだ・・・」
と言って闇野は財布からカードを取り出す。青い字で「USER:SHADOW」とか他にもRANKとかNEXTとかの単語が書かれていた、とある格闘ゲームのICカードだ。これが、改がゲームセンターを嫌がる原因だ。
「なんで、わざわざゲーセンで金払ってゲームするんだよ!全国にいるプレイヤーと対戦するならば、ネット対戦でいいだろ!?」
近年急速に発達したネットによって自宅に居ながら世界中にいるプレイヤーと対戦できるというのに、なぜ闇野はわざわざ一回百円も払ってゲームセンターでゲームをするのか理解しがたかった。加えて、闇野がゲームを始めると嵌って、小一時間は改をほったらかしにしてしまう。それが一番嫌だった。
「分かってないな、改は・・・」
「分かりたくない!」
絶対嫌だという拒否を改は、雰囲気から、表情から、口調から、体を介して主張できるだけ主張した。
「・・・仕方がないな・・・今回は、やらないでおく・・・だが、ゲーセンには行くぞ」
「は?」
闇野が改の手を取った。「ちょっと・・・」と戸惑う改を尻目に、闇野はぐいぐいと改を引っ張ってゲームセンターの方向に連れて行く。

プリクラ機のアナウンスと、格闘ゲームの打撃の音、音楽ゲームの曲、エトセトラエトセトラの音が組み合わさって出来た騒音がゲームセンターの近くに来るだけで聞こえてくる。
ドアの前に立つと、自動ドアが開き、音がダイレクトに鼓膜を刺激した。
「お前が格ゲーやらないのに、ここに来ても意味ないだろ」
耳をつんざくような騒音の中で、声を上げて改が闇野に尋ねる。
「いや・・・少しやってみたいことがあってな」
「また新しいゲームだろ」
「・・・そうじゃない」
普段、闇野が居座る格闘ゲームの筐体が設置された一角を通り抜け、闇野が足を止めたのはUFOキャッチャーの目の前。
UFOキャッチャーの中には、ガラス越しに赤いリボンをつけた白猫のぬいぐるみが無造作に数体転がっていた。
「まさか・・・これ、やるのか?」
「あぁ」
と言って、闇野は何故かコキコキと首と指を鳴らして、ポケットから財布を取り出し、小銭を投入口に突っ込んだ。
ピコピコという電子音が鳴り響かせながら、闇野がボタン操作でクレーンを動かす。
「ここだっ!」
やたら大きい動作で、ボタンを離す。
がしっとクレーンが重心を掴み、そのままぬいぐるみが運ばれ、ぼとっと取り出し口に落とされた。
「取れた・・・やる・・・」
「は?いいよ、お前が取ったんだし」
そもそも男の自分が、猫のぬいぐるみを持っているのも恥ずかしいと思い、改は断った。
「いいからやる」
ぬいぐるみが「むぎゅ」とか言いそうな勢いで改に押し当てられる。
「・・・わかったよ・・・貰っとく」
別に対していらないが、一応貰ったので改は「ありがとう」と不愛想に言った。
「何で、ぬいぐるみなんかくれたんだよ」
「女子ならば、そういうのを貰うのが嬉しいらしい」
「なっ・・・お、俺は女じゃないっ!!」
改が顔を赤くして、闇野に突っかかる。
「『ならば』と言ったじゃないか」
と言うも、闇野の声は、この店の騒音にかき消された。
「いつも、改はゲーセンに付き合ってくれるからな。だから、たまには、こういう風にプレゼントしたかったんだ」
「・・・お前がやりすぎなんだよ、バカ」
闇野を殴る代わりに、改は胸のぬいぐるみをぎゅっと強く抱きしめた。
「で・・・でもっ、こういう風にUFOキャッチャーとかやってくれたら少しは許してやるよ。ぬいぐるみが欲しいわけじゃないけど、その・・・」

償いというには大げさだけれども、ぬいぐるみに託したお詫びの気持ちが改にとっては嬉しかった。

「その・・・なんだ?」
「・・・いや、なんでもないっ!」
顔を赤らめて、焦るように取り繕う改。本音が言えなかった姿だ。そんな改の姿に、闇野は「相変わらず素直じゃないな」と心の中で微笑んだ。




―――――
2011.7.2
闇野って、音ゲーとかのカード(あれ何て言うんでしょうかね)いっぱい持ってそうだよなーとか思って書きました。
ゲーセンで置いてけぼりくらうと、きついです。

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