待ってるから

「ここが食堂で、あっちが空き部屋だから…」

スキップしながら、鼻歌交じりにライダー―アストルフォがシャドウ・ボーダーの廊下をぴょこぴょこと進んでいく。動きに合わせて頭の黒いリボンと大きな三つ編みが揺れる。
その後ろを俺は付いて行く。

聖杯大戦の再現による大聖杯の侵食事件のあと、協力してくれたマスターに恩として、端末の俺を彼の元へ残し、彼へしばらく協力することにした。
そうして、マスターの拠点であるカルデア…いや、今はシャドウ・ボーダーをライダーに案内してもらっているというわけだ。
中を歩いていると、マスターと契約したサーヴァントたちとすれ違い、あいさつをしてくれた。
その中にある人物はいないかと探っていたが、会った人たちに該当する者はいなかった。

「…なぁ、ライダー」
たまたますれ違わなかったのか、本当に居ないのか…思い切ってライダーに聞いてみよう。

「ん?なんだい?」
キッと足にブレーキをかけて、ライダーは振り向いてくれた。

「その…ジャンヌ=ダルクはいないのだろうか…」

俺の発した質問に珍しくライダーの顔に陰りが出来た。
「…あぁ…ここにはいないんだ…」

事実を知ったところで、悲しさも喜びもなかった。
知りたくて、分からないものを尋ねた、その答えがNOというだけだ。
ただ「そうなのか」と納得した相槌だけが唇から漏れた。

「…悲しくないの?」
ライダーが不安そうに尋ねてくる。
彼としては自分の答えが悲しませるものだと思っていたのだろう。
明るい彼に申し訳ない質問をしたと思う。
「そうだな…彼女は…絶対にあの世界にやって来てくれると思うから悲しくないんだ。ここで会うのは少し早すぎると思うし…」
率直な思いを伝えたつもりだが、ライダーの顔の暗さは晴れない。
「…えーっと…本当に残念に思わないんだ。だから、俺は大丈夫だよ、ライダー」
少し笑って呼びかけるとライダーが徐々に明るさを取り戻す。

「カルデアの召喚術は不安定だから、特定のサーヴァントを選んで呼べないというだけで会える可能性はあるんだろ?」
「う、うん!マスター…っていうと、君じゃなくて、えぇっと、今のマスターが彼女との縁を繋いでくれたから、今は会えなくても…いつか、きっとね!!ボクも一緒に待つよ!他にも彼女を待ってる人達はいるんだよ!聖女ってすごいよね!」

一気に普段のテンションに戻ったかと思えば、「聖女といえば…」と話題が別の人物に切り替わり、ほっとした。

待つのは辛くない、ただ少し、少し長いだけ。
そうだと思って、一人で待っていた。
けれど、ライダーやマスター、ここにいるサーヴァントたちと彼女を待てるのは嬉しく思えた。




―――――
2019.5.13
フォルダ整理で発見したので上げます。2018年5月のアポコラボのときに書いたSSでした。
PUがあまり来てないのと、回してないのでうちにはいまだにジャンヌがいません…。

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