夜中にこっそり食う夜食は美味いか

(…どうにも眠れない)

むくりと、ベディヴィエールは体を起こした。
最近、戦闘に駆り出されることが多かったため、マスターが休暇をくれたため、のんびりと過ごしていただ。読書をしたり、程よく眠気が来たら昼寝を取ってみたり、精神と肉体をゆっくり休めていたが、些か休み過ぎたらしい。疲労を回復しきった体は、休眠を受け付けにくくなってしまった。

与えてもらったのは個室であるため、ベディヴィエール以外いないのだが、ゆっくりとベッドから動き出す。水分でも摂って、一旦落ち着こうと考え、カルデアの食堂へ歩き出した。



***

「…?」
食堂につくと、厨房の方からぼんやり光が漏れていることに気付いた。
自分のように水や夜食を求めてきたサーヴァント、あるいは夜勤の職員と出くわす可能性もあると予想していたため、そう不思議に思わないが、賊ではないかという懸念もある。
キッと神経を研ぎ澄ませ、警戒しながら、目的の厨房へ近づく。

そろり、そろりと一歩一歩近づき。光源で厨房にいる人物をハッキリと認識できる位置まで来た。

「誰だ」

低い男性の声だ。聞き覚えがある。
「…小次郎さん…?」
最近も戦場を共に駆けた仲間のサーヴァントだった。
よくよく見ればもう一人、小次郎より背の低い少女らしき人影。

「うへぇ…厄介な奴に見つかってしもうた…」
口元を歪ませたのは、魔人アーチャーこと第六天魔王こと織田信長。

「…一体何をしているのですか?」
コンロ付近でごそごそと作業していることから、夜食作りだとは思うが、ベディヴィエールは一応訊いてみた。
相変わらず信長は嫌そうな顔をしている。その代わりに小次郎が答えた。
「焼き芋だ」
「やき、いも…?」
聴きなれない言葉に、疑問符を浮かべていると、信長が解説を付け足してくれた。
「サツマイモを焼いた料理というかおやつというか…。本来なら焚き火でやるのが一番なのじゃが…」
サツマイモといえば、ジャガイモとはまた違った甘い芋。ベディヴィエールの出身のブリテンでは馴染みのない野菜だ。
はぁーっと信長はため息をついて、びしっとベディヴィエールを指差す。
「ええーい!口止め料じゃ!!お主にも少し分けてやろう!」
「そうだな。少し待っていてくれ」
ふふ、と苦笑を漏らしながら、小次郎はコンロに備え付けられたグリルを覗き込んだ。

「そもそも何故このように隠れるようなことを…」
芋が焼けるのを待ちながら、ベディヴィエールは素直な疑問を口にした。
「先日レイシフト先でサツマイモを見つけて、持てるだけ持ち帰ったのだが…そんなに量も多くなく、カルデアの食糧に回すべきだろうが…まぁ日本人の血がな…」
と小次郎の目線が信長に向かう。彼女も「じゃな!是非もないよね!」と決め台詞をかましてくれた。焼き芋とは日本人の血が騒ぐ何からしい。
「他の者に見つかっては、1人が食べられる量も少なくなる。というわけで、信長殿とこっそり食べようと企てていたわけだ…。まぁ、こうして隠れて楽しむのもなかなか緊張感があり楽しいのだが…」
つまり、信長と小次郎が、こっそり独占しようとしていたところにベディヴィエールが邪魔しに来てしまったというわけだ。申し訳ないことをしたと思いつつ、貴重な食料を独占しようとするのはよろしくない。ベディヴィエールの中の申し訳なさは、彼らの素行不良で相殺された。
焼けたタイミングを見計らって、小次郎がグリルを開く。網にはアルミホイルにくるまれた小ぶりの芋が二つ乗っている。竹串でぷすりと芋を指し、焼け具合を確かめる。
「どうじゃ?」
「うむ、大丈夫だろう」
すっと通った竹串を抜き、焼きあがった芋を取り出した。
「焼き芋って…つまり…サツマイモを焼いただけですよね…?」
「焼いただけ…とはなんじゃ!失礼じゃぞ!!」
「お主も蒸した野菜が好きではないか」
「いや、あれは素材の味が生きていてですねぇ…」
「焼くも蒸すも一緒じゃ!!とりあえず食うてみ!?」
好物を批判されて、むっと来るが、信長と小次郎の言いたいことも分かる。
焼いただけならこれもきっと素材の味が生きている食べ物なのだろう。
信長が半分に割って渡してくれたサツマイモを受け取る。
焼けたばかりで熱々の身から、ほんのり芋の甘い香りが漂う。皮は焦げて黒くなっているが、中身は金色。ほくほくと柔らかそうで、ふわりと湯気が上がっている。
「では、いただきます」
ぱくりと一口。

「…!?」

サツマイモの甘みが口に広がり、身も見た目通り、熱々ながらほくほくと柔らかくふわっとした触感が楽しい。

確かにこれは「焼いただけ」とバカにした自分が悪かった。反省している。目線を動かすと信長と小次郎が「そら見たことか」と言わんばかりの顔でこちらを見ていた。
「寒い日に焚き火をしながらな、焼き芋をすると楽しいぞ〜?」
「うむ、詫び寂びというやつだな」
「んー何か違うがの」
二人とも小さい芋を味わうようにゆっくり口にする。
「今度はぜひマスターや他の皆さんとやってみたいですね…」
「うむ、余裕があればな!」
人類を守るという大きな目的もあるが、こうした小さな幸せを掴むためにも、やはり人理修復に精を出さねばと、ベディヴィエールは改めて思った。

「ごちそうさまでした。すみません。わざわざ分けていただいて…」
「最初に言ったじゃろ。これは口止め料じゃ」
「というわけでマスターや他の者たちには他言無用だ」
「はい。了解しました。お二人ともありがとうございます」
当初の目的を忘れていたが、二人と話して、美味しいものを食べれて、身も心も満たされた。なんとなくいい夢を見れそうな気がする。
ベディヴィエールは再び、ゆっくりと自室へ戻った。


***


「―ということが先日ありまして…。次は是非とも皆さんと焼き芋をしてみたいですね」
今日も人理修復のため、レイシフトで時代を飛び越えた先で。焚き火を囲みながら、ベディヴィエールは楽しそうに数日前の思い出を語った。
「ね、信長さん、小次郎さん」
にこにこにとベディヴィエールはマスターや他のサーヴァントに話すが、織田信長と佐々木小次郎は、表情をひきつらせていた。
「信長さん、小次郎さん?」
「二人ともちょっと説明してもらおうか?」
外部と隔絶されてしまったカルデアにとって、物資のつまみ食いは問題だ。
マシュとマスターに迫られ、信長と小次郎はこってりとしぼられることを覚悟した。と、同時に恨めしそうな目線でベディヴィエールを睨む。
今になって、ベディヴィエールはうっかり口を滑らしたことに気付いたようだ。冷や汗を垂らして、慌てはじめる。
「ベディヴィエールさんも共犯ですね!!うっかり告発してくださったことはありがたいですが、一緒に食べたことは同罪です!!」
マシュがビシッと指摘する。
「す、すみません…おいしかったものですから…」
「子供ですか!?」

マシュとマスターに叱られながら、小次郎と信長は天然の裏切りをしてしまったベディヴィエールを睨んでおり、ベディヴィエールはやり場のない申し訳なさに狼狽えるしかなかった。
結局、マスターやマシュの温情で説教でこってり絞られ、しばらくおやつ抜きにされただけですんだが、食堂でおやつをつまむカルデア職員やサーヴァントたちを恨めしそうに見る光景(特に信長が)が見られたという。



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2017.10.21
確か6月ぐらいに書いた奴。まだ腐向け方面でハマってなかったのでわいわいしてるだけですね。

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