口折る


11月11日―日本では、発売から50年以上の歴史を持つ“棒状のお菓子”の日と販売会社が何時頃からか言い出し始め、特に何もないのに何故か学生を中心にこぞってその日にその菓子を買うようになった。
が、しかし、この神威島では、棒状のお菓子とは縁がない。1960年代の日本を如実に再現した神威島には、菓子類は1960年代当時に存在した物しか置いていない。例に漏れずその菓子も、駄菓子屋にも商店にも置いていない。
そのような事実もあり、11月11日を再認識し、棒状お菓子の日を思い知らされ、特に甘いものが好きな女の子は件の菓子がないことを嘆き、本島が一層恋しくなる。

吹野タダシはそんなの関係ないと、いつも通り牛乳と適当な調理パンを買って、屋上に上がった。
普段よりも食堂が騒々しい気がしたが、うるさいのは好まない。目的の物を買ったらさっさと食堂を後にした。
屋上にはもうロバートが待っているはずだ。扉を開けるのに気付いた彼がタダシの方を振り向いた。

「…なんで、その菓子があるの?」

棒状に焼いたビスケットにチョコレートをコーティングした“棒状のお菓子”
そんなものはない…はずだというのにロバートの傍には、本島ではお馴染みの赤い箱が転がっているではないか。

「売店に今日だけ特別に入荷していたんだ」
「何でまた」
「シスイ曰く、『販売会社が善意を伴って強引に入荷させた』らしい」

引用部分だけいつもよりワントーン落として言った。物真似をしたつもりだろう。ぶっちゃけ似過ぎてシャレにならない。
売上向上の陰謀か、近代の菓子に飢えた神威大門生への慈悲か。それは分からないが、ともかく昼食だ。

「ごちそうさま」と二人同時に手を合わせて昼食を終え、早速ロバートは赤い箱を手にした。
箱の中のビニール袋を破いて開き、「食うか?」と赤い菓子箱をタダシに差し出す。タダシを箱に手を伸ばし、一本手に取った。次いでロバートも一本口にする。
「久々に食ったけど美味いな」
にっこりと口にチョコの付いた棒を加えたまま喋る姿が外見にそぐわず無邪気で愛らしい。


「ごめん、やっぱりそっちがいい」
「そっち、とは?」
イチゴ味やビターチョコ、ミルクチョコ、季節限定の味。確かに様々な種類があるのだが、ロバートが今日買ったのはスタンダートなミルクチョコ味の一種類だけだ。
おかしさと感じていると、タダシの顔が近づいてきた。
ロバートが咥えていない反対の、手で持つためにご丁寧にチョココーティングを施していない方をぱくりと咥え、唇が付くか付かないかのギリギリのところでぽっきりと口で折った。
「うん、うまい」
満足気に呟いて、タダシは「ありがと」と一言零す。
「そういうことか…一枚取られたな」
はあぁと大きく溜息をついて、ロバートは顔と肩を落とした。


――――
2014.11.12
30分ほど過ぎたけどタダロバでポッキーの日でした。
タイトルは、手で折るなら「手折る」だから、口で折るならーっていう言葉遊びに近い。

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