なのに手は繋げない

帝都ザーフィアスの街中で大々的に開かれた祭り。
路上に開かれた露店に、行きかう人、人、人。

「この人ごみだと離れてしまう。手を繋ぐぞ」
すっとデュークが左手を差し出す。
「うぅ…」
磁石が吸い寄せられるかのごとく、そっとユーリはデュークの手に自分の右手を近づけるが、もう少しで触れるところでバッと手を引っ込めた。

「むっ…無理無理!!」

顔を真っ赤にしてユーリは首をぶんぶんと振った。


生まれてこの方、二十一年。ユーリは男性と付き合う経験が全くなかった。
フレンは物心ついたときからいる幼馴染、自分の半身、男として見ていなかったし接することもなかった。容姿から見知らぬ男に言い寄られたこともあったが、見知らぬ人間とすぐに付き合う程軽率ではなく、色恋沙汰も興味を持たなかった。

そんなユーリが付き合うことになったのが、何の因果かデューク・バンタレイだ。
人との交流と文化を断ち切ったデュークに対して、持ち前のほっとけない病が発症したユーリが世話を焼き続けて共に行動することが多くなった。そして、気付けば告白され、恋仲になっていた。

しかし恋愛経験が全くないユーリは恋人と付き合うことが分からない。デュークに触れられては赤面して、恥ずかしさで震え上がる。自分でも驚いたがかなりの初心だった。
反して、デュークは人間と袂を分かつ以前に経験があったのか、女性のエスコートが手馴れていた。
ユーリに気を使うことや、恋人同士らしい振る舞い。無愛想なことを除けば、おそらくは世の女性が求める理想の恋人像を体現した人物に違いないだろう。

「大丈夫だって、ちゃんと後ろに付いていくって!」
デュークの白銀の長髪は目立つ。背だって高い。ユーリは見失わない自信があった。だから、と言わんばかりに手を繋がないことの交換条件として引き出してきた。更に、絶対に繋がない姿勢を示すかのように、彼女らくしなく手を後ろに隠している。

恋人同士だというのにキスはおろか手も繋げない。それが酷い不満ではないが、デュークとしては物足りかった。そのくらいの欲が生まれるくらいには、デュークは人間らしさを取り戻していた。
「仕方がない」
ぽつり、と言葉と共に溜息を吐き出す。
長い脚で一歩だけ、ずいとユーリの目の前に踏み込むと、強引にユーリが後ろで隠すように組んだ右腕を掴んで前方に引き出す。そして、自分の左手でユーリの右手をしっかりと握った。
「行くぞ」
「ちょ、デューク恥ずかしいって…やめてくれよ!」
この期に及んでもユーリは抵抗をやめない。踏ん張って地面に靴底を縫い付けようと足に力を入れて、その場に留まろうとした。
「私としてはお前を抱えて行ってもいいのだが…どちらが良い?」
「普通に手ぇ繋がないで歩く」
「それは出来ない」
「…ならこのままの方がマシ…」
不満げに小さな声ではあったが、デュークは満足げに口角を僅かに上げた。
「では、行くぞ」
デュークが堂々と一歩を踏み出す。ユーリはおずおずと半歩後ろを付いていくように歩いた。

鼓動が速まって、デュークにまで聞こえているんじゃないかと思うくらいだ。
恋人に触れられることは嬉しい、幸せだ。
でも恥ずかしいものは恥ずかしい。
恥ずかしさを誤魔化すように、ユーリはデュークの手を強く握った。



――――
2014.11.10
出すかどうか迷ったデュクユリ♀。
デュークが結構女慣れしててユーリがドキッとするデュクユリが見たかったんだわー。

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