善意は時たま無自覚の悪意に等しい

※キャラ崩壊

昔々、あるところにおじいさんとおばあさん…ではなく、一組の若い夫婦…というか、男同士なのでカップルがおりました。
片方は騎士団に努め、真面目な勤務っぷりから騎士団長に任命され、多忙な日々を送っていました。
片方は忙しい恋人が家ではゆっくりできるように家事を一生懸命こなしつつ、それだけでは体がなまるということで、たまには魔物退治に出かけて小遣い稼ぎをしたりしていました。
たまには喧嘩したりもしますが、お互いの短所を補い、長所を伸ばし合う、それはそれは仲の良い恋人達でした。

ある冬の日の夕食の時です。騎士団長の男が言いました。
「ユーリ、僕…来週から一ヶ月ほど遠征に行くことになったんだ…」
「わかったフレン!!気にせず行って来い!!」
寂しそうに言うその騎士の男のフレンに対して、恋人のユーリはどーんと構えて言い放ちました。
「一ヶ月も僕と離れるんだよ!!?」
寂しがる恋人を抱きしめる算段を立てていたフレンは思わず食卓に手をついて突っ込みました。
「前も長く会えないことあったから別に」
ユーリはなかなか淡泊でした。

そんなやりとりをした一週間後、フレンは遅刻ギリギリまでユーリに愛の言葉を送ってから、長い遠征に旅立ちました。



最初こそは、結婚前のような一人の時間を満喫したり、近所の人とお茶会したり、せがまれて子供と遊んだりと寂しいこともなかったのですが、一ヶ月となるとユーリもさすがに寂しくなってきました。魔物退治に出かけたりもしましたが、「また君は危険なことをして!」と言うフレンがいないので、余計に寂しくなりました。
どうにかこうにか寂しさと戦いながらフレンが帰ってくる日を迎えました。遠征を頑張るフレンのために、おいしい御馳走を作ってあげようとユーリは市場に出かけました。

その道中のことです。散歩のつもりで珍しく山道を通っていると、何か白い物体がもぞもぞと動いていました。近づいてみると一羽の鶴が罠にかかっているではありませんか。
「あー罠に掛かっちまったのか。これで大丈夫…っと」
ユーリが鶴の脚を捉えていた罠を外してやります。すると鶴はお礼を言うかのように一鳴きして空へと飛び立ちました。
ユーリは、何でこんなところに鶴が…とも思いましたが、一ヶ月前よりも冷え込んできた気候にくしゃみをひとつすると、早く家に帰って準備をしようと思い改め、気にせず市場へと向かいました。

その夜、夕方から降ってきた雪が急激に強まり吹雪にまで成長しました。
野菜がごろごろと入ったシチューをかき混ぜながら、ユーリはフレンのことを心配していました。
もう町にはついているだろうか、どこかで立ち往生しているのではないのだろうか…等々。
その時でした。

コンコン

「フレン?!」

待っていたフレンの帰りかと思い、鍋の火を止めて、ユーリは玄関に駆け寄りました。
「フレン…?」
と思いきや立っていたのは、この吹雪に溶け込まんばかりの白銀の髪をした男でした。
「…誰?」
「遭難した、泊めてくれ」
と男が開口一番言うのです。
「いや、遭難って町に付いた時点で遭難じゃないだろ…っていうか、すぐ隣が宿だぞ」
何を隠そうにも、フレンとユーリの愛の巣の隣には、割と大きめの「宿屋 箒星」と書かれた看板がぶら下がっている建物が存在するのです。
「…金がない」
「あ。あー…ああああ〜〜〜」
ユーリのほっとけない病が発症しました。「入れ!」と男を招き入れてあげました。
部屋の明かりに照らされて分かりましたが、身なりがなかなかでした。しかも容姿に至っては、眩しいばかりの銀髪に白い肌、それらによって際立つ赤い目と、人間とは思えない整った顔でした。ユーリは、浮浪者かと思っていましたが、財布を落とした貴族というのがしっくりくるかもしれません。
「ったく、お前、何でまたこんなひっでー雪の中に居たんだ?」
とユーリは突然の客人に質問します。
「諸々の事情があってな」
男は淡々と答えました。
ユーリは男を暖炉の前に座らせ、シチューを盛った皿を渡します。
「体冷えてるだろ?食った方が良いぜ?」
男は黙って皿を受け取りました。
「そういえばお前の名前は?」
「デューク、だ」
「そ。俺はユーリ。もう少ししたら同居人が帰ってくると思うけど、ま、気にしないでくれ」
「同居人?」
デュークは聞き返します。
「同居人っていうか…同棲相手ってヤツだな。一晩くらいならあいつも気にしないから」
少し照れて、ユーリは言いました。

しかし、せっかく説明した同居人こと同棲相手こと正確に言うと恋人のフレンは返ってくる兆しすらありませんでした。
もう日付も変わろうとしています。ユーリは仕方なく寝ることにしました。
いきなり上り込んできたものの、一応は客人のデュークを自分のベッドに譲り、ユーリ自身はソファに寝ました。

ベッドより固いソファで寝付くのに少しだけ手間取ったものの、ユーリは意外にもあっさりと眠ってしまいました。おそらく昼間にフレンの帰りを待ち侘びて、家の中をしっかりと掃除したり、料理を頑張ったせいでしょう。
「ん……あ、ん?」
安らかに眠っているところ、何だか上から気配がしました。
ユーリは目を開けます。するとデュークがユーリに覆いかぶさっているではありませんか。
「おい…てめぇ…何のつもりだ…?」
助けておいて夜這いか?とユーリが眉をぴくぴくさせながら言います。
「恩返しだ」
「ふざけるな」
「ふざけてなどいない、私はお前が昼間に助けた鶴だ」
「は?」
流石にユーリも意味が分からないと間抜けな声を上げます。と、同時にこんな変な奴だったのかと易々と家に上げたことを後悔しました。
「恋人がいるのに家に居ないということは、お前は性欲がたまっているだろう?助けてもらった義理だ、私が―」
「ちょちょちょちょ!!!」
デュークの顔がどんどん近づくではありませんか、これって不倫?浮気?嫌でも俺はそんな気はない!!デュークに相手がいるならデュークが主語で浮気か不倫が正解か?!とか考えていたら勢いよく玄関のドアが開きました。

「ユーーーーーリーーーーーっ!!!!!」

吹雪の轟音にも負けず、フレンが満面の笑みでユーリの名を呼びながら入ってきましたが。
「………」
そりゃ絶句もするはずです。見知らぬ男(それもかなりの美人)が恋人を押し倒しているのです。

ブンッ

問答無用で遠征帰りで装備もそのままのフレンはデュークに切りかかりました。騎士団長怒りの素早い一閃。が、デュークはあっさりとそれを避けました。
「ああああちょっと待て!待てって!助けてくれたのは嬉しいが、家の中で人斬りはやめろ!!」
「じゃあ外なら良いんだね?!」
「バカ野郎!!」
ダン!と呆れてユーリはソファの傍のミニテーブルを叩きます。台パンとかいうやつです。
家の中がダメなら外とか、そういう問題ではありません。吹雪の中で人斬り。朝起きると雪で白い一面に白い男が赤い血まみれで―ある意味では絵にはなりそうですが、サスペンスが起きても困ります。しかも、その犯人が騎士団長で自分の恋人のフレンとなると面倒通り越すレベルで面倒です。

とりあえずユーリはデュークとフレンを床に正座させて、腕を組んで叱りました。
デュークには夜這いを仕掛けたことについて、フレンは人斬りを起こそうとしたことについて。
フレンは疲労で頭が回らなさすぎたようで、非を認めましたが、デュークは淡々と言い放ちました。
「人間の三大欲求の一つは性欲だ。一ヶ月も恋人がいなかったユーリは性欲が―」
「お前その顔で性欲性欲言うな!!残念すぎるだろ!!」
「つまり、その…貴方はユーリのためを思って、ユーリを…」
「うむ。それがユーリに対する恩返しだ」
「あー昼間に助けた鶴とか言ってたな」
こくこくと頷きながらフレンはユーリの話を吟味します。頭の血が退いて大分思考が冷静になって来ました。
「デュークさんの善意だったのか…」
「そーゆー善意いらねーわ…」
善意というには、デュークの善意は明後日の方向を向いている。
ユーリとしては、デュークは思考が的を外している人間と認識し、持ち前の生真面目さから懇々とデュークを説得してもらえれば思っていました。

「成程…人の善意を無下には出来ないな…なら三人でしよう!!」

しかし、ユーリの期待とは裏腹に、真っ直ぐな目でフレンは言うのでした。

一ヶ月恋人に触れていない鬱憤と、遠征の疲れでフレンの思考は正常に戻ったと思いつつも、完全には戻っていなかったようです。

「お前頭湧いてんだろおおおお!!!!!!?」
「なるほど、効率的だな。問題ない」
「問題だろ!!大問題だっ!!」

近づく二人の男にユーリは成すすべもなく、吹雪が吹き荒れる寒い夜を、三人で熱〜〜〜くすごしましたとさ。

めでたしでめでたし。

―――――
2014.9.27
デューク→白い→鶴ということで「鶴の恩返し」パロだったはずが、パロというよりうっすい下敷き状態になった。
綺麗なデュークも好きだけど、ギャグだとネジ数本吹っ飛んだり緩んだりしてると思う。

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