君に触れると垣間見えた

※My第5小隊設定でタダシとロバートは同じ小隊。




銃口から真っ直ぐに放たれた弾丸は自分の思い通りの軌道を描いた。
これで今日の戦闘は終了した。

親友の機体を撃ち貫いて。

すまない。許してくれ。許してくれ。

吹野タダシはそれ以上の言葉を知らないかのように何度も何度も同じ言葉を紡ぎ続けた。
贖罪にもならないとは分かっていても、あやまることしかできなかった。

ただただ延々と同じ言葉を紡ぎ続ける自分の姿がそこにあった。

「っ…!?」
そこでタダシは目を覚ました。
カーテンをしっかり閉めた室内。隣のベッドには同室のブンタが健全な寝息を立てて熟睡していた。
それらを見て、タダシはここがセカンドワールドではなく、自室であること認知した。
(夢か……久々に見たな…)
幼馴染の笹川ハヤテを撃ったときの夢。
あの時のトラウマでライフルを握ることをやめたが、少し前にジェノックの仲間のおかげで克服でき、もう一度ライフルを取ることができた。ハーネスに引き抜かれた今でも、他の仮想国から引き抜かれたメンバーで構成された第五小隊でスナイパーとして活躍している。元々ハーネスの諜報班でスナイパーとして活動していた鴻森シスイからも、その腕は褒められている。
完全に克服できたと思っていたが、そうでもなかったようだ。
視界に入る前髪を掻き上げ、タダシは顔をしかめた。
トラウマの原因となった夢を見たからと言って、もうライフルを取りたくないとは思わなかった。現状、頼られている自負もあったし、撃ってしまった幼馴染のハヤテはタダシが思っているほど気にはしていないし、腕を認められていることをアラビスタの白牙ムサシからも聞いた。
心の棘は抜けたはずなのに、どうしてまたこの夢を見たのか。
(多少なりとも、無意識では気にしているんだろうな)
とりあえず、そう分析した。
我ながら客観視できたな、とタダシは自分自身に感心した。

とはいえ、目覚めの悪い夢を見てしまって目が冴めてしまった。
枕元に置いていたCCMを操作して沈黙していた画面を表示させ、時刻を見る。ちくりと光の刺激が目を傷めるも、すぐに痛みは治まった。
再び画面を見ると、デジタル表示の時計は二時を表していた。
これが五時ないし六時であれば早起きのつもりそのまま談話室にでも行き、雑誌やテレビを見ながら起きているだろうが、今なら太陽も地平線の下の下だろう。まだ眠れる。しかし、目は冴えている。
はぁっと、溜息をつき、水でも飲もうとタダシはベッドから起き上がった。1960年代、主流だった木製の建物を如実に再現した軋みやすい床を、ルームメイトを起こさないようにゆっくり踏みながらタダシは部屋を出た。

ルームメイトだけではなく、寮生を起こさないように慎重に歩き、談話室のドアを開く。
ドアの曇りガラスの向こう黄色く光っている。誰かいるようだ。メカニックの誰かがまだ整備をしているのだろうかと、思いつつタダシはドアを開いた。
ソファに一人、灰の髪を伸ばし、それと対称的な褐色肌を持つ、ハーネス第五小隊の―タダシの現在の隊長、ロバート・レイノルズ。
「どうした、タダシ?」
「嫌な夢を見て、眠れなくなった」
目的地にたどり着いて、深夜ということも忘れ、タダシはどっさりとソファに腰を下ろした。
「何だ、お前もか」
目元の隈が目立ち、話しかけ難い印象とは裏腹に、けらけらとロバートは笑った。
出撃前には「備えろ」「準備は?」と甲斐甲斐しく聞いてきて、戦闘中は冷静に敵を切り裂く。容姿や、すっかり声変わりした低い声に反して、この男は意外と人懐っこく、世話焼きだ。シルバークレジット高額所得者としてランキングに名を連ねていることは知っていたが、こうも親しくなったのはハーネス第五小隊としてジェノック転属されてからである。
「水でも飲むか?」
テーブルの上には水の入った容器とガラスコップ。おそらくロバートが持ってきたものだろう。
「あぁ」
タダシは無言でコップに水を注いだ。
「眠気が覚めるほど嫌な夢…か…」
溜息をつくように、ロバートが呟いた。
「お前はどんな夢を見たんだ?」

タダシは自分と同様にトラウマに触れるような夢ではないと微塵も思わなかった。

「クルセイドの仲間達が倒れていく夢だ」

ロバートの返答を聞いた途端、タダシは後悔の念に駆られた。
「すまない」
「いや、いいんだ」
ロバートの元々の所属は、すでに滅んでしまったクルセイド。そして彼はシルバークレジット高額所得者に名を連ねるクルセイドのエースだった。プライドはあるだろう。それなのに国を守りきれなかった悔しさも。
「ロストした機体も無くはないが、それも数機だ。なのに夢だと、俺だけが残って皆ロストしていったんだ…それが妙にリアルでな起きたら汗だらけだった」
ロバートは柔和に笑って話す。
クルセイドが滅び、アラビスタに吸収されたが、アラビスタの者達と人間関係が悪いというわけではなさそうだった。時々元級友に話しかけられて気さくに挨拶を返す姿は食事の際に見ていた。
実際、彼をスカウトしに行った第一小隊のメンバーも「昨日の敵は今日の友、これぐらいの気概がないとな」と言ってのけたと証言している。
それほど、人に慕われ、器が広い男なのだから、クルセイドが滅びたことも見逃せないことではあるが、タダシはロバートにとって気に病むほどのものではないと思っていた。
「俺はそんなに気にはしてないのだが…何故こんな夢を見てしまったんだろうな」
困ったように笑うロバート。そんな姿を見て、タダシはぽつりと口を開いた。
「…俺と同じだ」
「え?」とロバートが目を丸くしてタダシの顔を覗き込む。
「俺はかつて、親友を誤ってロストさせたんだ。それで一時期ライフルを握れなくなった。もう仲間のおかげで吹っ切れたと思ってたけど、さっき夢に見た」
「…そうか…お前も苦しかったんだな」
ぽん、とタダシは頭に重みを感じる。ロバートの掌が頭に乗せられ、優しく頭を撫でられる。
「やめろよ、恥ずかしい」
「そうか?落ち着くやつは落ち着くらしいが」
むくれるタダシにロバートは首をかしげる。
タダシは子供っぽいことをされたとやや不機嫌になったが、ロバートはこういう世話焼きなのだ。その性質を理解して、自分を納得させ、機嫌を戻した。
タダシは、はぁっと一つため息をつき、ロバートのほうを振り向いて言った。
「俺は、現実と違う夢を見たお前のほうが辛かったと思う」
睨むような、だが、100パーセントそうではない気がする。今のタダシの目は確実に相手を捉えようとする目だ。ロバートは自分がスコープの中央に捕らえられたような錯覚に陥った。
精密さを求められ、スコープを覗き込むスナイパー特有の目つきだろうか。鋭さを持っている。自然とロバートの体が硬直し、目線すらも逸らせない、逃げられない。そういえば以前、白牙ムサシに狙撃を見せてもらった際、こんな目をしていたという記憶がロバートの脳裏をかすめた。となると、これがスナイパーの目かと納得した。
そんなことを思っていると、ずい、とタダシの顔がロバートの顔に近付いていた。

「あ」

ふと気が付き、ロバートから何とも間抜けな声が出た。
「お前でもそういう風にあわてたりするんだ」
冷静なロバートがいつもと違う態度を見せている。普段とのギャップを知り、タダシの口角が少し吊り上った。
タダシは小動物を見るような気持ちになった。この感情は、そうだ。「かわいい」に似ている。
「目がなんというか…その、怖いぞ、タダシ」
「俺はいつもと同じだよ」
すっと手を伸ばされて、額の所で止まる。
「いたっ」
「さっきの仕返しだ」
ぴんっと軽く、額にデコピンをかまされる。
「そんなに嫌だったのか」
「別に」
仕方がないと納得したが、ロバートが慌てふためいたところでちょっと仕返ししてやろうとタダシのいたずら心が芽生えてしまっただけだ。
「ついでだ」
「うわっ!」
額から頭へ手を伸ばされ、ロバートは頭を撫でくり回される。
「タダシ、痛いぞ」
乾かして整えた長髪がぐしゃぐしゃになっているが、構うものかとタダシはわしわしと手を動かす。
気がすんでロバートから体を離し、平然と元の態勢に戻った。
逆にロバートは、うんざり、と言いたげに、前のめりになる。
「あぁ。でも何か落ち着いた気がする…」
「俺もだ」
夢を見たときに焦りと生々しさはどこかへ消えてしまった。スキンシップの効果を実感したところで、ロバートが苦笑した。
「ありがとうタダシ」
「別に俺は何もしていない」
図らずとも、ただの気まぐれがお互いにとって良い効果をもたらした。何ともおかしな出来事だ。
「さて、落ち着いたことだし、俺は寝るかな」
「俺もそうしよう」
水の入った容器とコップを片付け、談話室を後にする。

「それじゃあ。おやすみ、タダシ」
「あぁ、おやすみ」
部屋の前で別れ、小さな声であいさつを交わす。
布団にもぐりこんで、ふと浮かぶのはロバートの慌てふためいた顔。
(…かわいかった)
あんな顔もするんだな、と知ったところで、もっと色んな顔も見てみたいと思った。
同時に不本意ながら頭を撫でられるという形で、今回は慰めてもらったが、ロバートはもっと弱さを見せてもいいし、自分が支えたいとも思った。
(もっと頼られるようになりたい)
どうすればそうなれるのかと考えるうちにタダシは眠りに落ちて行った。




――――
2014.2.20
うおおおタダロバーーーータダロバーーーー!!!!!
もはや俺得でしかないけど、もうそれでいいや!と開き直っています。

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