君と放課後デート?

「やぁ瀬名アラタ」
後ろから突然声をかけられ、アラタは「ん?」と声を出し、振り向いた。
そこにいた声の主は、自分と年齢がさほど変わらない新たな神威大門の教師、セレディ・クライスラーだった。
突然できた新興国家エゼルダーム、伊丹キョウジを使って自分をスカウトしに来たこと、年齢に似つかわしくない経歴、何を考えているのか分からない表情、「セカンドワールドを疑え」という過激な発言、全てが直情的なアラタにとっては、波長が合わず、付き合うには遠慮したいと思っていた人物だ。
クラスメイトもよくわからないと近寄りがたいとは思っているようだが。
「今暇かい?」
ウォータイムが終わり、ハルキは報告書の作成、ヒカルとサクヤはバル・ダイバーの調整の相談。たまたまアラタは一人で廊下を歩いているところだった。
「え…ま、まぁ…」
年が近いとはいえ、一応セレディは教師だ。キッパリと断ることもできず、アラタは曖昧な肯定の返事をした。

「そ。では、ちょっと付き合ってほしいんだけど…いいかな?」

セレディの口角が吊り上った。

***

「すみませーんチョコパフェひとつー」

というわけでいきなり手首を掴まれ、階段を下り、玄関で靴を履き替え、校門をくぐり、神威商店街へ続く坂道をどんどん下り、あれよあれよと言ううちに連れてこられたのは、純喫茶・スワロー。

店長の案内で窓際の席に座り、セレディは即座にチョコパフェを注文していた。
「気になっていたんだよね、ここのパフェ」
るんるんと花と音符でも舞っていそうなセレディの表情にアラタは呆れながら言葉を振り絞った。
「付き合うって、こ、こんなことだったんですか!?」
てっきり、エゼルダームへの勧誘の確率が99パーセント。残り1パーセントの低確率で教材運びといった授業準備の手伝いかと予想しつつ、確率の大きい前者の方に賭け、アラタは断る身構えをしていたというのに、女子学生と同等のことをされるとは…ますますセレディという人物かよくわからなくなり、アラタは呆れて頭を抱えた。
「君も好きなんだよね、チョコパフェ」
「あ、ハイ」
ふふ、とセレディの表情が柔らかなくなる。
「同級生とはここによく来ているんだよね。この間は、鹿島さんだっけ?クラスメイトにパフェを奢っていたと聞いた」
「……はい…?」
それはどこ情報ですか?と言いたげな目線をアラタはセレディに送る。
「まぁ一応私も教師だからね。学校にいる以上は君の噂も耳に入ったりするんだよ」
それなら納得できる。
「あ、決して監視カメラとか盗聴器とか仕掛けてないから安心して」
補足のつもりだろうが、そう言われると本当にしているのではないかと思ってしまう。セレディの言葉は、「私今回のテスト全然できなかったよー」と言いつつも実際は点数が滅茶苦茶良いとかいう、言葉と現実が噛み合わない現象が発生することに似ている。
できるか!、とアラタは心の中で突っ込んだ。同時にメカニックが金属探知機でも持ってないものか、持っていたら貸してほしいと、帰ってから頼む算段を付けているうちに店長が直々に名物のチョコパフェを運んできた。
「それじゃ、いただきます」
付き合うといってもセレディがパフェを一方的に食す姿を見るだけなのか。
甘い香りで空腹を訴える腹を誤魔化すかのようにアラタはお冷に口をつけた。
しかし、男一人では入りにくいからアラタを同伴させたと理由を考えたら納得できないわけではない。そう決めるつけることにした。
「食べてはみたかったものの…この量は多いね。良かったら残りどうだい?」
一番上のアイスを半分削ったところで、セレディはスプーンをアラタに差し出した。
「いいんですか?!」
食べ盛りの中学生にとって、目の前の人間が食べている姿を見るだけというのは拷問にも等しい。セレディがこくりと「どうぞ」と言った途端に手からスプーンを受け取り、アラタはパフェに挑み始める。
「いっただきまーす!!」
チョコとクリームが合わさっているも、決して甘すぎず絶妙な甘さが口に広がる。それを引き立てるようなフルーツの酸味。
「んーおいしー!」
満面の笑みでアラタはパフェを頬張る。
「それはよかった」
まじまじとアラタの顔を見つめると、スプーンを口に咥えるたびコロコロと表情が変わる。
「やっぱり君はかわいいね、瀬名アラタ」
そんなことを言われたことにも気づいてないようだ。

「はー。ごちそう様でした!」

ぱん、と律儀に手を合わせてパフェを完食。アラタの目の前には空になった容器と、スプーンが置いてあるだけ。
「セレディ先生ありがとう!」
にっこりとアラタはセレディにお礼を言う。帰ってから金属探知機で盗聴器あるいは監視カメラを探す算段はもはや頭から吹き飛んでいた。
「いや、食べ物を残して捨てるのは勿体ないからね。寧ろ食べてもらった方がよかったよ」
常温にまで戻った水の入ったガラスコップを口につけて、セレディは「まぁ自分で頼んでおいて食べきれないっていうのも無責任だけど」と肩をすくめる。
「おや、口にクリームが付いているよ」
余程夢中だったのだろう。ここまで彼を虜に出来るチョコレートパフェが羨ましい。いっそのこと甘味で釣ればエゼルダームにあっさり来てくれるのかとさえ思ってしまう。
「あちゃーまたかー!この間も食べた時にやっちゃって、ユノ達に笑われたんだよなぁ…」
苦笑しつつ、アラタは口元を指で触る。具体的にどの辺とは言われないから、「あれ?」と首をかしげながら右手で右の頬を触っていた。実際は、その逆に白いクリームが乗っているのだが。
「ふふ、ここだよ」
セレディがテーブルに手をついて、軽く立ち上がる。接近してくるセレディの顔。
彼の赤目と目が合ったかと思えば、頭をやや下げられ、視界が彼の青い前髪に覆われる。
「あ、え……」
セレディの口元がアラタの左頬に寄せられ、舌でちろりと何かを舐め取られた。
「ん。甘いね。私にはこのくらいで丁度いいかな」
余裕と満足感を孕んだ声と態度のセレディに対して、アラタは下で触れられたところをぺたぺたと掌で触る。ついでに顔が熱い。いや、体全体が熱くなっている。

「ええええ?!」

壊れたロボットのような動きをして、一拍おいて、アラタは大声を上げた。店内の客が一斉にアラタとセレディの席を振り向く。
「はっ!あー!いや!すみませんすみません!」
店内で大声を上げたことをぺこぺこと頭を下げながら謝り、アラタはセレディを振り返った。
「ななな何したんですか!普通に取ってくださいよ!」
「それじゃあ面白くないからね。でも、いいものを見れたよ。御馳走様」
軽やかに椅子を降り、伝票を手にする。
「私の奢りだ。それじゃあ、いつか君がエゼルダームに来てくれることを楽しみにしてるよ」
さっさとレジに歩いて行って、セレディは会計を始めて、店を出て行ってしまった。
「な…何したかったんだろ…」
店内に残されたアラタは顔を赤らめたまま、しばらく椅子に座り呆けた。

***

(ふふふ、いいものが見れたな…)
珍しく神威商店街をぶらつく。気分が高揚しているせいか、普段は何とも思わないし、1960年代という古き良き彩りの街並みが、数段明るい彩りを醸し出している気がする。
(やっぱり君は面白いよ。是非私の元に来て欲しいな)

その日、神威商店街でセレディ・クライスラーを見かけた神威大門の生徒は、彼が年相応の笑みで商店街を闊歩していたと語る。





―――――
2014.2.20
本当はチョコパフェのチョコにかけてバレンタインにアップしたかったものの何かバタバタしてたうえに、バレンタイン気分に乗れなかったので、筆が乗っている今書いた。
一番びっくりしたのが執筆時間が3〜4時間だったことですかね。勢いってすごい。

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