グッドモーニング ハッピーホリデー

※新婚さんなセレアラ。
※男性口調ですが、アラタ女体化。




セレディ・クライスラーの体内時計は正確無比だった。
若くして天才的な頭脳で飛び級を繰り返し、今や研究者として世界に名を連ね、自分の研究を進めながら、大学で教授の地位に就く多忙な身だというのに、休日の今日もいつもと同じ時間に体がアラームを鳴らし、布団から起き上がった。右を見ると、横に寝ていた妻がいない。布団もない。
ふすまの隙間から漏れる、かすかな電灯の光と包丁がまな板にぶつかる音に、今日は早起きしたんだなと安心した。
(寝顔を見続けられなかったのは残念かな)
休日ならもっとゆっくり長く寝てても良いと思うし、何より幸せそうな妻の寝顔を見つめるのはセレディのささやかな楽しみだった。

折り畳んだ布団をしまうために部屋の端の押し入れに布団を直そうと、戸を開くと、少々乱雑に彼女の布団が押し込んであった。
家事が得意とは言い難い彼女だから、致し方ないと苦笑してセレディは、妻の布団を引き出して、きれいに入れ直した。

「おはよう、アラタ」
「何だよー、もう起きたのか?」
くるりとセレディに顔だけ向けた女性が、彼の妻だ。水色のエプロンが、対称的な赤い髪と似合っている。

アラタ・クライスラー。旧姓・瀬名。
出会いは、セレディが特別講師としてアラタが通っていた大学に講義に赴いた際、講義室へ移動していた時に講義に遅刻しかけたアラタと派手にぶつかったことだった。
『うっわあ!すみません!クライスラー教授ですよね?!』
ひたすら謝るアラタに「気にしないで」と交わしたのが初めての言葉。
その後、セレディを呼んだ旧知の仲の大学教授と、その教え子たちと飲み会をすることになって、その教え子の一人にアラタもいた。
必死にセレディに教えを請おうとする姿勢に感心し、メールアドレスを教えて交流が始まり、年も近いこととあってか、打ち解けていった結果、今に至るというわけだ。

「休日だからゆっくり寝てもいいのに…」
「これはこっちの台詞だよ」
「起きたときにご飯がないと困るだろ?」
確かにそうだ。セレディは料理が苦手と言っても過言ではないし、自分の料理を食べるよりは外食の方がましだと思っていた。そして、何よりアラタの料理が世界で一番好きで、アラタと一緒に囲む食卓が好きだった。
「ほら、歯磨いて、顔洗って、着替えて来いよ」
「了解」
答えると同時にセレディがアラタの頬に手を伸ばすと、バッとアラタが手にしていたお玉をセレディに向けた。
「おはようのキスぐらいさせてほしいな」
「う…ぐぬ…」
そっとお玉を降ろすと、アラタは目をつむり、顔をセレディに差し出すように首をのばした。
「じゃ、改めて…おはよう、アラタ」
セレディはちゅっと軽く触れるくらいのキスを頬に送った。

身を整え終わったセレディが食卓に着くときには、テーブルの上には朝食の準備が完璧に整っていた。
「昨日、鮭が安くってさー、すっげぇ美味そうだろ?昨日から朝は絶対塩焼にしようって決めてたんだ!!」
嬉しそうにアラタが言う通り、切り身の鮭が四角い皿の上で香ばしいにおいを放っている。脂が乗り、視覚的に美味しさを感じ取れた。
「はい、それじゃ」
ぱん、と手を二人は合わせて、
「「いただきます」」
早速鮭に手を付けたアラタ。
「んー!おいしー!!」
「本当だ。やっぱり日本の魚は新鮮で美味しいね」
程よい柔らかさと、塩加減、脂の乗りも食欲をそそるぐらいで丁度いい。
一口含んでから、慣れた手つきで箸を使い、セレディは皮をはがす。
「セレディ皮食わないの?」
「え?寧ろアラタは食べるのかい?」
「パリパリで美味しいのに」
心底残念そうにアラタが言うものだから、セレディは一口かじってみたが、パリパリというよりガサガサでセレディの口には合わなかった。
「ん…私には、ちょっと合わないな…」
「じゃあ俺に頂戴」
「はいはい」
セレディはそっとアラタの皿に皮を乗せた。

「鮭もいいけど、私はアラタの味噌汁がやっぱり好きかな」
汁茶碗を持ち上げると、まだ熱い汁から味噌の香りが広がる。
「相変わらずだなぁ…自信ある料理他にもあるのに…」
頬を膨れさせ、セレディが味噌汁をすする様子をアラタはじっと見つめた。
同級生の男子と食事したりはしたが、セレディの食事は同級生と比べると静かで、品というよりも色気があるのだ。
ゆっくりと汁茶碗を傾けるだけなのに、ドキリとしてしまう。夫だから、好きな人だからという理由もあるのだろうか。
「ん、今日もおいしいよ」
笑顔で言われて、はっと我に返るアラタ。
「そ、そうか!ありがとう!!」
毎日食事を作っているが、毎日セレディは「美味しい」と言ってくれる。その言葉を聞くと、素直にうれしいし、もっと頑張って美味しいものを作ろうというやる気につながる。そして、自分は愛されていて幸せだとアラタは思うのだ。

「休日だけど、今日はどこかへ行こうか?」
「あ、じゃあ隣町のショッピングモールに行こう!」
セレディの新しいシャツを買おう。
それじゃあアラタの新しいハンカチも。
お昼はパスタが良いかな?
なんて会話を交わしながら、ささやかだけれども、愛と幸せに満ちた二人の休日が始まる。




―――――
2013.11.17
「ジジくさいセレディ→味噌汁すするセレディ→アラタの作る味噌汁が好きなセレディ→新婚さんいらっしゃい」こんな感じでこのネタが生まれました。
自分の文だし、食事の描写上手くできたわけでもないけど「脂の乗った鮭」って打っただけで、お腹空いて、深夜のセルフ飯テロ起こしていました(^q^)

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