気まぐれ釣り堀ロード

「ちょっと遠いトコだけど、新しい釣堀がオープンするんだってだってさ!行ってみようぜっ、速水!!」

と部活終了後に浜野海士が速水鶴正を誘った翌日。
速水は、稲妻町のバスターミナルに居た。そこが浜野との待ち合わせ場所となっていた。

今日行こうとしている釣堀は、稲妻町からバスに三〇分ほど乗った場所にあるらしい。速水自身は、浜野が指定した時間きっかりどころか、余裕を持って到着したというのに、浜野は約束の時間を過ぎても現れなかった。
携帯で電話しても出ない。メールも送っておいたが、まだ返信は来ない。
速水は、言い出しっぺであり、昨日はかなり楽しみにしている様子だったのに、どうして遅刻できるのか速水は理解に苦しんでいた。
しかし、だ。1年ほど、彼と同じ学校、部活で活動していると、人物像なんかは分かっている。着いて、遅刻を咎めても「あぁ、わりぃわりぃ。ちゅーか、まぁ良いっしょ!行こうぜ!」などと軽く受け流すだろう。

気を紛らわすために、ずっと音楽プレイヤーに入れた曲を流しているが、効果はない。
呆れてはぁーっとため息をつくと、察したかのように携帯が震えた。画面には「浜野海士」の名前。
黄緑色のヘッドホンを耳から外して、電話に出る。

『あぁ、速水?オレオレ!』
「はいはい、分かっていますよ。浜野君ですね」
まるでオレオレ詐欺のような上頭句を並べられ、内心笑ってしまった。
『遅れちゃって、ごめん!今、そっち向かってる!すぐ着くから!じゃ!』
ブチッ、ツーツーと潔いくらいに、綺麗に電話を切られてしまった。言いたいことだけ言われた速水は、
「ちょっと!浜野君!!?もしもし!もしもしー?!」
と切られた電話に無意味にも話しかけてしまった。

「もーっ、浜野君は〜!!」
マイペースなところが良い所でもあるが、マイペース過ぎて悪い所もチラホラ出てくる。
「すぐ着くって言っても・・・いつですか・・・」
ここに居ない浜野に対し、無意味に唇を尖らせるしかなかった。

すると。
「ねぇ、君一人?」
びくんっと速水の方が跳ね上がる。声がする方を振り向くと、知らない男の人だ。高校生ぐらいだろうか。
初対面どころか全く知らないというのに軽々しい口調で速水に話しかけてくる。
「一人なら、俺とちょっとお茶しない?」
「あのー・・・俺、友達待っているので・・・そのっ・・・」
勢いに圧倒され、速水は否定しようにもごにょごにょと口ごもる。
知らない人に声を掛けられるのも掛けるのも苦手な速水にとっては、大きなプレッシャーであった。
「え?なになに?」
と構わず話しかけてくる男。
こうなったのも遅れてきた浜野のせいだ。浜野がもっと早く来ていれば。

「速水ー!わりぃわりぃ、遅れた!」

バタバタと走って浜野がこちらへと近づいて来る。
「は、浜野君!」
丁度良かったと、速水は安堵する。
「なにー?こいつ、君の連れ?」
「えっと、まぁ、そういうことになるよな、速水」
飄々と浜野は答える。
「は、はいっ!!」
早く解放されたいという焦りから、速水はカクカクと首を縦に激しく振った。
「ちゅうことで、じゃあねー、お兄さんっ!」
速水の手を引いて、浜野は走り出した。

「ちょっと、浜野君・・・」
「んー?」
「あのぅ・・・新しくできた釣堀に行くのではなかったんですか?」
浜野に手を引かれ、逃げることが出来たは良いものの、バスターミナルとは離れたところに来てしまった。
「あー!そうそう!!でも、なんか遠いし、今月の小遣いピンチだから、やっぱいつものトコに行こうぜ!」
「えぇ〜?!」
遅刻した上に突然の予定変更。速水はあきれるしかなかったが、助けてもらったし、実を言えば速水はそんなに新しい釣堀には興味がなかった。
ただ、浜野が誘って来たから、行ってみようと思っただけだ。
「なっ、行こうぜ!」
「分かりましたよっ!もー、浜野君はいっつもマイペースなんですから〜!」
とはいうものの、速水は悪い気がしなかった。

そして、浜野は速水の手を引いて、行きつけの釣堀へと向かった。




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2011.10.2
初めてのGO作品ですね。浜速可愛い。
友人を待っているときに思いついたネタです。

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