短編集 | ナノ


言訳

その日は、ニンジャと名の外出する日だった。

11月の上旬だというのに、とても風が冷たい。
今までは普通にジャケット一枚で外出するにも事足りていたが、そうもいかなくなってきたのだ。

新しいコートを購入するついでに一緒に出かけようと、いう。そんな流れだった。


なのだが、天気は生憎の曇り。
ただの曇りなら問題はないのだが、かなり冷え込むとのことである。

朝、少しニンジャが外に出てみたが、中々の冷えっぷりだったという。


その為に現在名はもこもことした上着を室内にいるのに羽織っている。
一方のニンジャはいつもの忍装束。あんな薄着で寒くないのかと名は不思議に思ったが、きっと超人だからだろう、と結論付けることにした。


「…名、今日はやめておくか?」

「いえ、もう少しだけ…手だけあったまったら準備します!!」


名は熱いココアの入ったマグカップを両手で握りしめる。


そんな彼女を見て、ニンジャは眼を細める。
ふぅふぅと息を吹きかける仕草がとても愛らしく見えて、どうしようもなく穏やかな気持ちになるのだった。




結局半刻ほどかけて手先を暖めた名は、現在持っている一番暖かい上着を引っ張り出し、わたわたとニンジャにつれられてデパートへ。
デパート。何故に高価なものを!と、内心はらはらしていたが、当のニンジャは涼しい顔。


「ニンジャさん…あの、デパートのだとすごく、高くないですか?」


「何を言うか。こういうところのもののほうが縫製がしっかりしている」


長い目で考えればこういう所で買ったほうが得になるでござる、と平然と言ってのけ。
真っ直ぐ目的地へ足を進める。

あまりこのような場所に足を運んだ事の無い名は辺りをきょろきょろと見回してしまう。
基本的に彼女は屋敷外へは買出しプラスアルファでしか出たことが無く、デパートなぞ年に数回訪れればよい方。それぐらいなのだ。

あちらこちらを見渡せば色とりどりのコートが。

毛皮のものや、もこもこっとしたもの。
可愛らしいデザインだがあまり防寒に適していないもの、色々だった。


「たくさんありますね…」


「ああ、季節が季節でござるからな


…さ、好きなモノを選ぶでござるよ」


「…え?」



名の脳は一瞬活動を停止した。
それもそのはず。比較的血盟の屋敷では優遇されてきた彼女だったが、それは家計に支障が出ない程度のもの。
元々モノを強請る、という行為自体名はしてこなかったおではあるが。
そんな彼女だ。いきなり、こんな高価なものがずらりと並べられている所に来て。何でも構わない、好きに選べ、と言われてしまったのだ。

思考停止、所謂フリーズ現象を引き起こしてしまってもなんら問題ではない。


「…店員、彼女に似合いそうなコートを全部持ってきてくれぬか?」


「畏まりました。少々お待ち下さい」


こうなってしまっては彼女はしばらく復旧しないだろう。
そう判断したニンジャは近くに居た店員に声をかけ、さくりとサイズを指定し、片っ端から取り寄せた。

合計10着ほど持ち寄せた後、人形状態になっている名にあれやこれやと着せたり脱がせたり。
女性店員の手を借りつつ、半ばお人形さんごっこのごとく試着を散々繰り返し。

名が我に還ったときにはもう全ては終わっていて。
右手を引かれながら、大きな大きな建物を後にした時だった。


「それにしても…とことん名は器用でござるな。
思考回路を停止させた状態でも移動できるのだからな」

「わわっ、ほんとすいません…!!


…あの、ほんとにごめんなさい…
こんな高価そうなもの、買ってもらっちゃって…」


「…何を謝ることがあるか…」


そう言うと同時に繋いでいた彼女の右手をぐいと引き寄せ。自分のほうへ。



勢いあまってお互いの距離が一気に詰まる。
ちらりと見えた彼女の耳がとても赤く染まっていたが、そんなことは気にしない。



「拙者たちは恋人同士でござろう?」



愛しい者の為なら、全く苦にも何にもならぬでござる、と。
名の耳元で、名にしか聞き取れないくらいの音量で囁き。

自分も恥ずかしさが込み上げたのか。ニンジャは目線を彼女からそらし。
行くでござるよ、とそのまま歩き始めた。




「あの、ニンジャさん…ちょっと座って休みませんか?」



いろんなことが一気に起こって疲れてしまったのか、名はそう申し出た。
風も冷たいし、近くのカフェにでも入ろうかとニンジャは尋ねたが。どうやら閉塞した空間が嫌なようで。
ここで良いです、と示したのは人気の無い公園だった。

「しかしここだと身体が冷えるでござるよ?」


「大丈夫ですよ?……たぶん……」


「小声でそんなことを付け加えて欲しくないでござるよ。。。」


「あ、すいませんっ」


「とりあえず…何か暖かいものを飲みながら少し休憩するでござるよ」




即座に暖かい紅茶とコーヒーを1本ずつ用意したニンジャは、公園のベンチに腰掛けるよう彼女に促した。

有難うございます、と笑顔で缶を受け取った名はやはり寒いのか。両手で大事そうに受け取り、暖をとった。



「やはり寒いのではないか」

「でも…」

「全く…風邪を引いたらどうするつもりでござるか?」

「うぅ…ごめんなさい…」


しょんぼりとうなだれる姿は彼女の年齢よりもはるかに幼く見え。
少し言い過ぎてしまったか、とニンジャは些か反省したのだった。



「…名」




名前を呼ばれ、はい、と返事をするよりも先に。
名はニンジャに抱きしめられていた。


「に、ニンジャさんっ?」


こんなとこで、こんなの、恥ずかしいです、と後半はごにょごにょと喋ったため正確に聞き取れなかったが。
ニンジャはそんな彼女の訴えを無視することにした。

いちいち可愛らしい反応をする名のせいだ。
そう言い訳をしながら。



「…こうすれば…暖かいだろう?」



密かに両腕の力を強める。

柔らかい身体からふわりと漂う優しい香りにくらりとしつつ。



ニンジャは聞いた。


今にも掻き消えてしまいそうなくらい小さな小さな言葉を。




「…ニンジャさん…だいすきです」




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111番桃花さまリクのニンジャ夢であります。
消化が遅い上、なんだか微妙な出来になってしまい、申し訳ないです!!

ニンジャは行動はやいくせにいざとなるとドギマギしてるといいな、と思いつつ。
細かいリク、本当にありがとうございます!ちゃんとおこたえできているかどうか物凄く不安ですが、楽しんでいただけたなら幸いです♪


桃花さまのみお持ち帰り下さい♪

2008.11.10


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