短編集 | ナノ


一日のスタート



「おはよう、薫くん」

「…ん……名…?」

 今日は日曜日。学校は休みで、珍しく部活もお休み。
わたしは隣に住む幼馴染の家にお邪魔していた。こうやって家にあげてもらうのはいつものことで、おばさんも笑顔で迎えてくれた。
時間があればテニスのトレーニングを欠かさない彼が、朝早くとはいえ部屋にいるかどうか、一つの賭けだったけど。

規則正しい寝息を立てながら、これまた珍しく彼は眠っていた。
きりりと整った顔立ち。
さらさらとそれでいて艶やかな髪。
筋肉のついた腕。

…やっぱりかっこいいな、薫くん。
そんなことを考えながらわたしは彼のベッドに近づく。
さっきよりも近い距離で見つめる幼馴染に、なんだか胸がドキドキしてしまう。
このままだとずっとこうしちゃうかも。そう思いながら、眠り続ける彼の名前を呼ぶ。

優しく体をゆすってみると、薫くんはゆっくりと目を開く。
にこりと微笑むと、まだ覚醒しきっていないらしい。ちょっとぼんやりとした声。

「…どうして、いる…?」
「ふふっ ないしょ、だよ」
「…なんだそれは…」

ぶっきらぼうな幼馴染はあきれたように声を漏らす。
ゆっくりと上体を起こし、伸びをひとつ。にこりと微笑んでもう一度朝の挨拶を交わす。
彼もぼんやりとした声音で一言返してくれる。それがなんだか嬉しくて、無防備に投げ出された薫くんの手をぎゅっと握った。

「…名?」

不思議そうに薫くんがわたしを呼ぶ。
最初は普通に。それから指を絡める。いわゆる恋人繋ぎに。
寝起きの彼の体温はわたしよりも高くて、なんだか心までぽかぽかしてくるような気がしたの。

ちらりと彼の顔を見上げてみると、この上なく驚いた表情をしている。
…耳まで真っ赤になってる…かわいい。

「えへへ」

だめ、なんだか嬉しさゲージが振り切っちゃったみたい。
緩みきった表情のまま、わたしは彼の手をぎゅっと握りしめた。



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どうしてテニヌに目覚めたのか今の私には理解できない(真顔
2012.04.09


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