短編集 | ナノ


クロームモリブデン鋼

「なぁ、フォルテ」

「なんだい名」

「知ってる?今日で俺たちが付き合ってぴったり1か月なんだよ」

「あー…もうそんなになるのか…早いねぇ。
 …ところで…お前はなんであたしにくっついてんだ?」

「いやだって1か月だよ?1か月。お互い軍に籍を置いてて、中々会えなかったしな」


そう言いながら、俺は愛しの恋人・フォルテを後ろから抱きしめる。
長身ですらりとした体。鍛えられていながらも、女性的な丸みと柔らかさを持ったフォルテ。
本当に久しぶりに堪能するその感触に俺は思わず頬ずりをしてしまう。

「はぁ…こうやってお互いゆっくりできるのは久しぶりだよな…。
 やっぱり定期的にフォルテ分を補給しないとだーめだー」

「いったいなんだい、そのフォルテ分ってのは」

「読んで字のごとく!フォルテと触れ合うことで補給される栄養みたいなものさ」

「いやー、いい笑顔でわっけわかんないこというね、名」

「それほどでも…!」

「…ぜんっぜんほめてないわよ!」


けらけら笑うと、フォルテは呆れた様子で俺に突っ込みをいれる。
あー…このやりとりすら懐かしい。
ぶっきらぼうだけど面倒見はよくて、それでいて純粋さも持ち合わせた彼女。
嗚呼…フォルテマジフォルテ。かわいい。最高に可愛い。


「…だっらしない面しちゃってさ…。どうせろくでもない、そのうえくだらないこと考えてたんだろ?」

「くだらなくなんかない!フォルテの美しさかわいさそして可憐さ素晴らしさ愛らしさについてだな!!」
「十二分にくだらないじゃないのさ!!!!」

「えぇー」

「ふくれっ面してんじゃないよ、いい年した大人が」

「…くだらなくなんて、ないよ」

「―…名…?」

そう。くだらなくなんてない。
俺にとってフォルテはそれぐらい大切な存在なんだから。
いきなり声音を変えたのは効果的だったらしい。
明らかに動揺して、さっきまでの勢いが失われている。

そうそう、フォルテはこうなんだよな。
頼れる姉御!って感じが強いけど、ちょっとこっちが強気に出て。しかもそれが押し切れなさそうだと、とたんに失速してしまう。
そんなか弱さ、ギャップも彼女の魅力なのだ。


「1か月たったら、これを渡そうと思っていたんだ。君はこういうの、好きじゃないかもしれないけど」


「……これ、は……」


「指輪。だけど普通の指輪じゃないよ、フォルテ」

「そう…だね。触れていると、落ち着く。…銃と同じ素材使ってるだろ?」

「お。ご明察。さすがトランスバール屈指のガンオタクだな」

「……なんだろうねぇ……褒められてる気がまるでしないわ」


「ははっ、何はともかく、だ!」



「これからも、よろしくな。俺のかわいいかわいいフォルテ」


ぐい、と彼女の体を俺の方へ向かせる。
戸惑った表情のフォルテ。そんな彼女の視線をまっすぐに見据えて、左手をとる。
そのまま用意した指輪を薬指へゆっくり嵌めると、フォルテは頬を赤く染めながら。
小さな声で、俺の耳元でささやいた。


「―……こっちこそ頼むよ、名」


そんな彼女がこの上なくかわいらしく思えて、俺は彼女の唇を自分のそれで押さえつけた。




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フォルテさんかわいい。
人気投票一時最下位だとしてもフォルテさんかわいい。
余談ですが、拳銃の原材料ってクロームモリブデン鋼というものらしいですね。
2012.04.02


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