短編集 | ナノ


オクノテ

 ここ数年のミスコンは優勝者が固定されてばかりで、観客も飽きがきているみたい。

観客のテンションが下がれば、その分開催側のモチベーションも下降する。

開催者のやる気が下がればどうなるか。
ミスコン自体の開催が危うくなる。当然コンテストにかける予算だって少なくなる、そうすればコンテストの質も下がる。

すると余計に観客の心は離れていく。


「…正に悪循環、だよね…」

「そうなるね、名」


今年もミスコンのシーズンを間近に控えてきたのだけれど、ここ数年悩まされている問題に、わたしと或くんは頭を悩ませていた。

…ただの中学生のわたし達が直接どうこう出来る訳でもないけど、わたしの両親も運営に回っているから人ごとに思えない。

何より、わたし自身幼い頃からミスコンに楽しませてもらっていたから。そんなイベントがなくなったり、面白くなくなるのはつらいところがある。


「でも…上下院長や美神さん、宮代さんの存在はおおきいもんね…」

「あの3人のポテンシャルは常人のそれを遥かに越えているからね」

「と、なると…そんな3人を霞ませるような種目を作るか…」

「もしくはもっとすごい参加者を見つけるか、だね」

「うん」


だけどどちらにも問題がある。
まず、種目の変更。あまりハードルの高いものにしてしまえば、一般の人が参加者しづらくなる。
誰でもできて、それでいて観客も楽しめる競技である必要がある。
そうなると競技種目は現状のままにするしかない。

次に新しい参加者についてだけど…これは運の要素もおおきい。
あの3人を出し抜くことができるような人材と、そう都合よく出会えるのだろうか。


「…うぅ…やっぱりもう打つ手なんてないのかなぁ…」

「いや、そんなことないよ。
優勝出来るかどうかはさておき…これを名が着て参加すれば集客アップは間違いないよ」

「…或くん…なにこれ…?」


どこからともなく彼が取り出したのは女性用の水着。
だけど明らかにおかしいところが一つあった。


「…なにこれ」


手にとってみればそのおかしさがよーくわかった。
一言で表すなら、その水着は『Vの字』の形だった。

どう見てもただの紐にしか見えない。

「ねぇ、或くんなにこれ?」

「ははっ、それを着て参加すれば今までにないくらいの観客が押し寄せるに違いないよ!」

「回答になってないよ或くん」

「色は悩んだけど、セクシーさを際立たせるブラックがいいかなって」

「聞きなさいよちょっと」

「と、いうわけで…」





「これでナンバーワンを目指すんだ、名」


紐をしっかり握りしめながら、或くんが力説してくる。

その両目は今まで見たことがないほどの強い意思を秘めていた。


…これはもう、話にならないのね。
言葉での訴えはもう無意味だと悟ったわたしは笑顔で彼に言い放つ。




「さ、或くん。焼き土下座でもしようか?」






--------
水着といえばVの字紐水着ですね(但し二次に限る)
 季節ハズレとか、言ってはなりません…

2012.03.20


[ Novel Top // Index ]