適材適所
「それでは、今日の予定を確認する。」
俺は手帳を片手に、部下達の前に立つ。
広げられたページには丁寧に割り振られた各個人の予定が、整然とまとめられていた。
何時からどこでどういった予定になっているのかが表で分類されているシンプルなものだが、非常にわかりやすく、それでいて伝えやすいものである。
「以上だ。全員、今日も頼んだぞ」
「はいっ!」
パタンとページを閉じ、部下全員と視線をあわせる。
全員、いい目をしている。正直今回のヤマはかなり厄介で、捜査も長期に渡ってしまっている。
泊まりがけで当たっている者もいるくらいだが…それでいて中弛みの様子がない。本当に、大した奴らである。
それというのも、目的と達成までのプロセスが明確化しているからだろうか。
俺はもう一度手帳を眺める。
丁寧にまとめられた予定に、今後のスケジュール。
男所帯の我が課で、こんな繊細な仕事をするのはたった一人だけだ。
「おぅ、氏」
「おはようございます、来須課長。3時からの会議資料ですが、完成しました。
念のため最後にもう一度だけ目を通していただけませんか?」
「わかった。…ざっと、だからな?」
「ふふっ、お願いします」
口元に手を当てて上品に笑う女性刑事・氏。俺の部下の一人である。
刑事という仕事はどうしても体力や力に比重を置いてしまう。それは当然のことなのだが、どうも各自が探してきた情報を『管理』することを不得手とする奴が多かった。
それゆえ、重要な情報を全体に周知できないことも何度かあったぐらいだ。
勿論そんなことは刑事としてあるまじき失態だ。実際、俺の上司から叱責も受けている。それぐらいに重要な問題だった。
の、だが氏が配属されてからその問題が解消された。
身体的ポテンシャルこそ飛び抜けてはいないものの、管理・整理能力に長けている彼女。
…今でもよく覚えている。
氏が配属された初日のことを。
『配属早々生意気を申し上げてしまいますが、わたしを前線でなく本部に置いていただきたいのです』
全く臆することもなく、真っ直ぐ俺の目を見つめて彼女はそういってきやがった。
はっきり言うと、大分生意気な女だと思った。普通の慣性で考えるなら、配属当初は現場へ向かい。そして、現場で学ぶ。それが通常だ。
しかしそれを彼女は拒否してきやがったのだ。
強い意思をその両目に秘めて。
−上司が俺でよかったな
そう言って俺は彼女の意向に耳を向けた。それが氏と初めてであった時の記憶。
生意気な事を言うだけはある。
名は本部での書類及び情報管理を一身に担いたいと申し出た。
各刑事の集めてきた情報を整理し、まとめ、それを周知する。
それまで手が回らなかった分野に着手し、俺達の捜査効率はあがった。
俺も、上司からの叱責がなくなったし、な。
裏方にしか回らなかった彼女だったが、徐々に現場にも参加するようになり。
現場と裏方な両方をこなす刑事へと成長した。
「…課長?どうされましたか、ぼーっとして」
「ん?あぁ…なんでもない…」
「そうですか。まだ寝ぼけてらっしゃるのかと思いましたよ」
「氏…お前なぁ……」
どうやらかなりの間思考に耽っていたらしい。
しかも氏のことをずっと見つめてしまっていたようで。
酷く気持ち悪いものを見るような視線を向けられてしまった。
毒づきを忘れることなくぶつけてきやがるとはな。全く、生意気な奴だ。
「ほら、来須課長、お仕事ですよ。しゃきっとしましょ?」
「あーうるせぇ、今からやるやる」
「やるやる詐欺はよくないですからねー」
「だー!生意気なことばっかりいいやがって!!仮にも上司だぞ?」
いつものゆるいやり取りを交わしながら、俺と氏は書類片手にデスクについたのだ。
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回想がメインな感じ。
未婚来須さんでここはひとつ。
2012.03.11