あまいかおり
音、というものは人を興奮させる一種の麻薬ではないかと。
彼・平坂黄泉は考える。
特に視覚を失っている彼にとっては、耳から得られる「音」がほぼ全ての情報となるのだ。
ありとあらゆる危機を、その1000倍の聴覚をもってくぐり抜けてきたわけなのだ。
常人にとってのそれとは意味あいも、重要さも桁違いである。
…と、そんな小難しい事柄を。黄泉は先刻からひたすらに思案し続けている。
動揺したとき、素数を数えて気持ちを落ち着かせるのと同じで。
そういった事で思考回路を満たさなければ。脳をフル回転させ、いけない理由が。彼にはあった。
「んっ……んぅ……は……
よもつ、さん……これ、きもち、いい?」
ずぼっ
ずぼっ
わざとらしく大きな音を出しながら、反り返った赤黒いモノを大切そうに口に含む名。
喉の一番奥までくわえ、そこからゆっくりと抜きさす。勿論、舌先で刺激を与えながら。
ゆるゆるとしたスピードかと思えば、勢いを持たせたり。
快感に緩急をつけつつ、名は黄泉を絶頂へ誘う。
それがあまりにもイイものなために、彼は必死に別の事を考えて。込み上げる射精感を抑制していたのだ。
「っ……名、…この、くらいで…っく…」
「ちゅ…えぇ?…まだ、黄泉さん、イってない、ですよね?…だから…はぁ…まだ、です…」
そう言う間も、口での愛撫は止められない。
喋りながら与えられる刺激が、中々に大きいらしく。息を上げながら、やめるよう黄泉は訴える。
勿論それも名は黙殺し、涎を垂れ落としながら引き続きくわえはじめた。
浅く口内に含み、ちろちろと舌先を動かせる。先端に這わせ、執拗に刺激を与えると、黄泉は声にならぬ声をあげた。
名はそんな彼にうっとりとした眼差しを向け、器用に自身のブラウスのボタンを外しはじめた。
最初はボタン。そしてフロントに位置するホックを外し。それまで窮屈そうに収まっていた胸をさらけ出す。
白くたわわに実るそれにも唾液を落とし、ぬめりを与えた上で、
「ぅっ……あぁっ……!」
黄泉のソレを、谷間で挟み込んだ。
先程まで与えられていた快感とはまた違うそれに戸惑い、驚き、悦びながら、黄泉は身体を奮わせた。
びくびくと脈打つ黄泉自身を胸で感じながら、名はソレを上下に動かし扱きあげる。
唾液の与えるぬるぬる感と、弾力のある胸で四方から圧迫され、黄泉は限界を迎えようとしていた。
背中から駆け上がる快感。もう素数も、哲学思想のごまかしも、何も効果を為さない。
「あぁ…っ…名、名…」
譫言のように彼女の名を口に出し、快感を高めてゆく。
彼自身の先端からは透明な液体が溢れだし、それが潤滑油となって更なる快感を与えてくる。
「よもつさんっ、気持ちいい?わたしの胸、きもち、いい?」
「はい、…っぁあ…凄く、イイです…はぁ…たまりません…!もっと、もっと…あっ…」
「はぁ、うれし…よもつさんっ、よもつさんっ…!」
「名…イイで、あっ、イイですよ、あぁ……イく…イくっ!!」
出して、と言い終わる前に
白濁色の液体が発射され、名の顔にぶちまけられた。
予想していたよりも多く放たれたその液体は、心なしか今までみたそれよりも濃さを増しているように黄泉は思った。
「はぁ…うふ、いっぱいでましたね、よもつさん」
とろん、とした声と眼差しの名。
顔にかかった液体を指で掬い、美味しそうにそれをなめとる。
一方の黄泉は溜まっていたものを吐ききった反動を受けていた。
畳の上に腰を下ろし、両手を少し後ろのほうについて力を抜きながら、呼吸を整える。
「…ね、よもつさん」
だらし無く投げ出された彼の脚の間に己を滑り込ませて、名は自分の体重を軽く黄泉にかける。そしてそのまま鼻にかかるような甘い声で囁きかける。
「次は、わたしの番ですよ?」
名の放つ甘い香と、性の快楽に脳髄まで蕩けてしまったのか。
ごくり、と
黄泉は唾を飲み込んだ
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攻めというよりはただの痴女っぽいですね。
2012.02.28