一輪
今日は、晴れ。
気分がうきうきするくらいの快晴だ。
ニンジャさんからお願いされていたふかふかの洗濯物を畳み、わたしは立ち上がる。
おひさまに匂いに誘惑されて、ちっちゃなポーチを掴んで部屋を後にした。
こんなに天気がいいんだもん!お買い物に行こう!
…と、思ったら群青色の壁にぶつかってしまった。
ぼすっ
「…大丈夫でござるか、名?」
「ニンジャさん、すいませんっ!
…あ、えと、洗濯物は全部畳み終わりましたっ!」
群青色の忍装束を身に纏ったニンジャさんがそこにはいた。
びしっと背筋をただして、なんとなく敬礼ポーズもつけてみる。
ニンジャさんは、かたじけないと一言。それに頭をぽんっと撫でてくれた。
なんだか嬉しくてにこにこしてしまう。
「ポーチなど持って、これから出掛けるのか?」
「はいっ!
天気がいいからお買い物に行こうと思って。
ニンジャさんも一緒に行きませんか?」
そう誘うと、ニンジャさんは顎に手を当て、逡巡したのち、夕餉までの時間お供するでござる。と。快い返事をくれました。
思った通り外はぽかぽかで、心なしか街の人みんなもにこにこしてるように見えてきた。
「今日はご機嫌でござるな、名」
と、ニンジャさんに言われるくらいうきうき気分は全面に出ていたらしい。わたしってわかりやすい人間なのかな?うーん。
「すっごくぽかぽかして、気持ちいいですから♪」
「確かに今日は良い天気でござる。
洗濯物もよく乾いていたでござろう?」
「はいっ。畳んでるとき、太陽の匂いがして、凄く気持ち良かったです。」
あ、タオルが凄く柔らかかったんですけど、柔軟剤つかったんですか?
などとたわいのない話をしながら、わたしたちは街のメインストリートをのんびりと歩き回った。
ふ、とあるものが目に留まり、足も止まってしまった。
隣を歩くニンジャさんもわたしに合わせて止まってくれ、どうしたのか、と一言。
「見てください、あそこ」
「…ほぅ…ガーベラでござるな」
わたしが指差した先には色鮮やかな花がたくさん陳列された花屋。
その中でもガーベラの花が一際鮮やかに主張していたのだ。
「あの、ちょっとだけ見て行きませんか?」
「勿論、構わぬよ?」
やんわりとニンジャさんは微笑み、わたしたちは花屋へ足を進めた。
その店は個人経営らしく、こぢんまりとしていた。
だけど内装にこだわっているのが見て取れて、ひとつひとつの調度品がとてもお洒落だった。
「わぁ…たくさんありますね…。。。
このアレンジメント可愛い!」
あっちこっちを見て回るわたしはさながら散歩中の仔犬。
我ながら子供だなぁと思うけど…でもでもっ!
「このハーブ、凄くいい香りがします〜」
…我慢できませんでした。一人で目一杯楽しむわたしを眺めて、ニンジャさんは保護者のように目を細めた。
「でも一番綺麗なのはこれですね。」
ひとしきり楽しんだわたしは、店先のガーベラを一輪とり、呟いた。
淡い桃色が太陽の光を浴びて、良くはえる。
「気に入ったのか?」
「はいっ。綺麗ですよね、ガーベラ」
「そうでござるな」
にこりと微笑んで、ニンジャさんは声をあげる。店長、これを一輪くれぬか、と。
いきなりのことに驚くわたしを余所に、とんとんと取引は成立する。
「ほれ名、拙者からのプレゼントだ」
す、っとニンジャさんの大きな手が近づいて、耳元に触れる。
少しひんやりした温度にどきっとして、顔に熱が少し集まった。
「よくお似合いですね」
「そうだろう。」
店長さんも出てきて、にこりと微笑む。
是非お客様もご覧ください、と手渡された 鏡で改めて自分を見てみると…
耳元に一輪の花飾り。
さっきのガーベラだった。
「先程処理をいたしましたので、明日までしっかりもちますよ。」
店長さんは笑顔だ。
またご利用ください、と一礼し店の奥へと戻っていった。
「ニンジャさん…ほんとにありがとうございます…!」
凄く凄く嬉しくて、頭を下げたら、ニンジャさんは構わぬよ、と優しく一言。
ぽんぽん、とわたしのあたまを撫でながら。
とても優しく、わたしの耳元でこう囁きました。
「可愛いでござるよ、拙者の名」
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08.10.28