ギャップ
「ねぇ名先生。
先生は猫と犬だとどっちがいいと思いますか?」
「秋瀬くん、ここは職員室。雑談するところじゃないよ。
…あとそれから、苗字に先生付けにしてくれるかな?」
「おや、手厳しい」
「手厳しいとかじゃあないからね。普通だからね?」
一日の日報を記入しながら、わたしは担当クラスの生徒を軽くあしらう。
…担当、といってもわたしは教育実習生だけど…。
「秋瀬くん、お願いだからもうちょっと待ってくれるかな?
先生はねー、この書類を仕上げたいの」
「さっきから全然進んでませんもんねぇ」
「そうそう…書くことが思い付かなくて…って、違う!」
いつのまにかわたしの向かいに腰掛ける秋瀬くんは、出来の悪い子供を眺めるような視線を、事もあろうにわたしへ向けてきた。
ついついノってしまったのは不覚としか言えないけど…うぅ…。
キッ、と彼に鋭い視線を向けてみたけれど柔和な笑みで返される。…これじゃあどっちが年上なのかわからないわ…。
短くため息を漏らし、わたしよりもずっと年下の彼を改めて見つめる。
プラチナと称していいのかな。綺麗な白い髪は夕陽を受けて神秘さを増し、物珍しそうにわたしの日報を覗き込んでいる。
…黙っていたら、かなりの美少年なんだけど、なぁ…。
そう。彼はわたしが今までであったことがないくらいに眉目秀麗な少年だった。
はじめて教室で顔をみたとき、あまりの端麗さに一瞬呼吸すら忘れてしまったくらいだもの。
…そのあと『探偵を目指している』という、少年らしさのある夢を聞いてこっそり安堵したのだけれど
「ほら、名先生。早く書類仕上げないといけないんでしょう?手を止めていたら進みませんよ?」
思考の海を漂っていたわたしは秋瀬くんの一言で一気に現実へ戻される。
ハッと我に返ると、ちょっと呆れ気味の彼が目の前にいた。
「はやくお仕事片付けてくださいね?」
とんとん、と日報を指で叩き。
悪戯っぽく秋瀬くんは微笑んだ。
「…しょうがないなぁ」
なんだかんだで彼のこの笑顔に、わたしは弱いのかもしれない。
普段は大人びた彼の見せる少年らしさ。そのギャップに。
「さくっと終わらせちゃうから、待ってくれるかな?秋瀬くん」
「流石、名先生」
わたしたちは視線を合わせて、にこりと微笑んだ。
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秋瀬夢。
そろそろ社会人ヒロインを脱出したい…
2012.02.18