睡魔
彼女はいつも眠そうな顔をしている。
否。顔をするだけでなく、実際に眠ることもしばしばある。
恋人でもある自分と一緒に居るのに、常に名はそんな状態だ。
と、いっても自分と二人きりの時だけではあるが。
今も二人で、誰も居ないリビングの大きなソファーに腰掛けて、お茶をしていたところだった。
バッファが先日買って来たシュークリームをぺろりと平らげると、気持ちよさそうに拙者の腕を掴み、顔を寄せてくる。
そんな彼女が愛しくて、愛しくて。
そっと絹のような髪に口付けを落とす。
「…んぅ…」
「名、起きたでござるか?」
覚醒しきっていない様子で名は眼をこすり、拙者を見上げる。
とろんとした眼差しに酷く心動かされたことは、正直に告白するでござる。
「…わ、またわたし…寝ちゃってました?」
「とても気持ちよさそうに眠っていたで御座るよ?」
「ひゃー…ごめんなさいぃぃぃ…」
いつも名はこうだ。
二人きりになるとうとうとしはじめ、仕舞には転寝を。
拙者はそれに対し腹を立てているわけではないが…時折不安になる。
拙者といては、やはり暇なのだろうかと。
あまり彼女を楽しませることが出来ていないのでは?と不安になる。それは事実だ。
「名は、いつも眠たそうで御座るな…?」
ぽんぽんとあやす様に、彼女の頭を撫でる。
髪質は柔らかく、それでいて絹のように滑らかだ。
そう言うと彼女は「褒めすぎです」と、顔を赤らめるのだが。拙者は本当にそう思っているのだから仕方が無い。
「ちゃんと夜眠っておるか?」
「うー…ちゃんと寝てるんですけど…。
ニンジャさんと一緒に居ると何故か眠くなっちゃうんです…。」
名よ…それはやはり拙者といてもつまらないということか…?
むむ…このままではいかん…。何か彼女を楽しませてあげるものを考えなければ…
と、妄想と云う名の別世界へ旅立とうとしていた拙者を呼び戻したのは。
鈴の音のように可憐な声だった。
「ニンジャさんと一緒に居たら、すっごく気持ちよくって…落ち着くんです。」
えへへ、としまりのない顔で##NAME1##はそう言った。
彼女があまりにも幸せそうな笑顔でそう言うから。
あまりにも嬉しくて。
「名」
「はい?どうしましたか、ニンジャさ、んぅ…」
自分といて、落ち着くなんて。
そんな嬉しいことを言う唇を、半ば無理矢理己のそれでふさいでやった。
嗚呼、きっと今の拙者もしまりのない顔をしているので御座ろうな。
ぼんやりと考えながら、彼女の身体を優しく抱きしめた。
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08.10.26