朝ごはん
「ニンジャさん、おはようございます。」
「ん、名でござるか。随分早いな。」
真っ白な割烹着に身を包んだ男、ザ・ニンジャは軽く振り返り柔らかい微笑みを浮かべた。
名と呼ばれた少女も同じようにふわりと微笑み、礼儀正しく頭を下げる。
「ニンジャさんも毎朝大変ですね。」
ほへぇ、と気の抜けた声を漏らしながら名は台所へと足を進める。
血盟の母、と一部で称されるニンジャは屋敷の家事を全て一人で切り盛りしているのだ。
なぜ元悪魔騎士でもある彼がそこまで所帯じみているのか。
そんなことをちらりと考えもしたが、きっと忍者だからなんでもできるんだ!すごいなぁ、と勝手に己を納得させ。
名は尊敬に満ちた視線をニンジャへ向けた。
「…どうしたでござるか?拙者の顔に何かついているでござるか?」
はっと我に返る。どうやら結構な時間彼を凝視していたようだ。
はわわと慌てふためき、すいませんすいませんと彼女は繰り返す。
「わっ、なんでもないです!」
「そ、そうでござるか。…よし…こんなところでござろうか。」
ニンジャは器用に手を動かし、名と会話を続けながら朝餉の仕度を済ませる。
最後の仕上げでもある味噌汁が完成したようだ。
「あ、すいません…準備の邪魔しちゃったみたいで…。。」
「気にすることはないでござるよ、名。」
ははは、と明朗に笑い。ニンジャは割烹着を脱ぐ。
それでも名は納得が出来ないようで、良くないですよと続ける。
「ほんと毎日毎日すいません…もっともっと私も手伝いまね?」
「気を使わなくても構わぬよ。それに、皆の食べる量は半端ではないからな。」
「だったら余計手伝わせてください!!」
それまでにない勢いをもって、紫苑がニンジャの言葉を遮る。
流石のニンジャも驚いたのか、面食らった様子で彼女を見つめる。
眼前の少女は顔を真っ赤にしながら自分を真っ直ぐに見据えている。
「わたし、ニンジャさんに比べたら料理そんなに上手じゃないし…。手際もよくないですけど…それでもニンジャさんの力になりたいです!」
「名…」
「わたしもお料理の勉強したいですし…。
沢山教えてくださいっ、ニンジャ先生っ!」
天使のように、名は笑って言った。
そんな笑顔に心を動かされつつ。
ニンジャも同じく微笑み、彼女のための割烹着を仕立てようと、考えるのだった。
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08.10.25