あるいみすれちがい
どうしようどうしようと、目下のわたしの悩みはそればかり。
なにがどうなのかと言えば、わたしの片思いの相手のことだ。
ただの人間でもあるわたしが。
超がつくくらい有名な超人レスラー・ケビンマスクに片思いをしてしまったのだ。
まさか住む世界の完全に違うような人にこんな想いを抱くなんて、少し前のわたしは考え付きもしなかっただろう。
切欠はとても些細なことで、超人オリンピックを観戦しに行った時のこと。
はじめて見る超人同士の戦いにとても感動して、どきどきして。
そんな興奮状態のままロクに回りも見ないで歩いていたら、長身の男の人とぶつかってしまったのです。
勿論わたしは注意力散漫状態で。ぶつかった相手の人はかなり体躯のよろしいかただったためにわたしはどすんと尻餅をついてしまったのです。
きゃぁ、と短く漏らすと。頭上から深くて低い声が降り注ぐ。
大丈夫か、と。
降り注ぐ声は今まで聞いたどんな男の人よりも深くて優しい声。
声の主を勿論わたしは知っている。だって何度もテレビや試合で耳にしたから。
だけど、こんな作り話みたいなこと簡単に受け入れられるはずが無い。
…白昼夢。きっとわたしは夢を見ているんだ。そうだ、そうに違いない。
もうっ、名のばかっ!ちょっと度が過ぎるぞっ!
などと一人芝居を現実逃避まがいにしていると、声の主はそんなわたしに少々驚いたのか。
すこし戸惑いの混じった声音でわたしを呼び、そのがっしりとした腕でわたしの身体をひょいと持ち上げたのです。
流石にこれには驚いて、ついその動作の主をまじまじと見つめてしまった。
鈍く耀く鉄仮面。しかしそれとは不釣合いなほど姿を見せる眩しいくらいのブロンドヘアー。
仮面の向うからちらりと見える視線はどこか穏やかで、まるで面倒見のいい近所のお兄さんという印象を受けた。なんとなくではありますが…。
中背のわたしがただの小柄な子供になってしまうくらいの身長、鍛え抜かれた超人としての肉体。その肉体を隠すような漆黒のコート。
わたしの片思いの相手・ケビンマスクその人でした、やっぱり。
「おい、大丈夫か?」
もとはといえばわたしの不注意が招いたことなのに、ケビンさんはとても申し訳なさそうだ。
さっきから顔を真っ赤にさせたまま硬直常態にあるわたしをみて、どこかを強打してしまったのだろうかと考えているのだろうか。
彼のちらりと見える瞳からはそんな感情が垣間見えたわけで。
「(どうしようどうしようどうしよう…!!なんでこうなっちゃってるのかな?
わたし、ケビンさんに助けてもらってる!心配されてる…!どうしよう、ああもう全然頭働かないよう!!)」
真っ赤になりながら動かない脳をフル回転させた結果なんて、火を見るより明らかなわけで。
見事「きゅう」と、まっかっかになってわたしは倒れてしまった。
その瞬間、大きくてがっしりした腕に包まれた気がするようなしないような、だけど。
そのことに感動する暇も余裕もなく、わたしは意識を手放した。ああ、神様。折角のチャンスを棒に振ってしまいました。申し訳ない。
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残されたケビンは、内心うろたえていた。
鉄仮面のせいで細かい表情が外部にはわからないものの、彼は少なからず混乱していた。
彼がうろたえてしまうのも些か仕方が無いことでもある。
何故なら彼の腕には見知らぬ少女。
白磁のような肌に華奢な体、それでいて女性特有の柔らかさをきちんと持つ身体。
触れるとふわふわの髪からはほんのりと漂う甘い香りが自分自身の理性を揺さぶってくる。
頬は朱色に染まり、桜色の唇からはかすかに声が漏れる。
「(…一体この後どうすればいいんだ…)」
超人レスラーとして活躍をしてきたケビンである。
若い女性からの人気も絶大で、訪れる場所それぞれで多くのファンに囲まれてしまうほどだ。
自分自身そういったことに興味を抱かなかったため、意図的に避けていたのだが…。今回はそれがあだとなってしまったようだ。
この場合、自分がどう行動すればいいのかがまるで思いつかないのである。
暫く考えた後、思いついたことは彼女をとりあえずどこかに寝かせようということだった。
しかし場所はどうすればいいものか。
そうか…俺の家ならベッドがある。
思いついてしまえばその後の行動は早かった。
丁度近くに止まってあったタクシーを捕まえ、行き先を告げる。
彼女の目が覚めれば、まぁ色々話すとしよう。
…などと、心底気楽にケビンは考えていたが。
この後目を覚ました名が、片思い相手のベッドで眠っていたという事実に驚愕し再び意識を手放した、ということは。
わざわざ明記する必要もないことであろう。
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とても久しぶりにケビン夢です。
きちんと自重の精神を持ち合わせておかないと、無意識に裏夢になってしまいそうです。
心無しかケビンが偽者ですね。自覚してます、サーセンww
2009.3.14