それはとうぜんのこと
偶然クロエと道端で遭遇したことが幸いなのか。
それとも、彼の持つ買物袋から風邪薬を見つけたことが、なのか。
はたまた虫の知らせというものか。
彼女自身どれが正しいのかわかっていないが、いずれかの理由で、名はケビンが風邪をひいたという事実を知った。
それを知ってからの彼女の行動は早かった。クロエとさくさくっと話をつけ、風邪薬等を受け取り。丁度帰宅途中だったため、実家に連絡をいれ。目についたタクシーを捕まえ、考えられる最速の方法でケビンの住むマンションへと到着した。
随分前に渡された部屋の合鍵を取り出し、急いで部屋に入ると、ベッドにはいつもの鉄仮面をはずしたケビンがそこにいた。
静か規則正しい寝息をたて、ケビンは眠っていた。
そんな彼の顔を見た瞬間、名は安心したのか。がくりとその場にしゃがみ込み、安藤したのであった。
「…っは…はぁっ…
よかった…あ…」
呼吸を整えると同時に声にも出していたらしい。そんな彼女の声を目覚ましに、ケビンがのろのろと瞳を開いた。
「…名…?なんでいるんだ…?」
「さ…さっき、クロエさんから聞いて…」
ぜぇぜぇと荒い息を吐きながら、名は答える。そんな彼女の様子で、ケビンは彼女がクロエから話を聞いた後急いで駆け付けてくれたんだろうと察した。
「名、冷蔵庫にミネラルウォーターがあるから、飲めよ。…急いで来たから、喉渇いてるだろ?」
「うん…ごめんねー…」
おいおいスルーかよ。なんでわかるの?とか言って欲しかったんだがな、等ケビンは心の中でこそりと思い、よろよろとキッチンに向かう彼女を見送った。
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よくよく話を聞けば、彼の容態はそこまで深刻なものではなく、既に薬の効果で回復に向かっているとのことであった。
「悪いな、心配かけて」
些かの罪悪感は感じているらしく、彼はぺこりと頭を下げた。
きっと名は少なからず怒っているだろう。心配して損した、と。彼女の話も聞くと、どうやら此処に来るためタクシーも使ったらしい。余計な出費をさせてしまったな。この埋め合わせは必ずしよう、こっそりと彼はそう思った。
しかし名は全く怒る事なく、安堵の表情を浮かべ、ただただ「大事にならなくてよかった」と繰り返した。
「怒って、ないのか?」
と、尋ねれば、どうして?と。質問を質問で返される。
「ケビン、風邪は治りかけが一番怖いんだからね?油断したらダメだよ?」
名はぴっ、と人差し指を立てて。その指先をケビンの唇にぴたりと付ける。
「ちょっと待ってて?ご飯作るから」
にこりと名は微笑み、すっと立ち上がって再びキッチンへ。
そんな彼女の後ろ姿を眺めながら。ケビンは、俺はなんにもわかってねぇなぁ、と呟いて。
「名」
気づいたら彼女の後ろ姿に向けて声をかけていた。
くるりとスカートを翻し、振り向いた彼女に、ケビンは極上の微笑みを送った。
「ありがとな」
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1500番キリリク作品です。
姫さまリクエストのケビン夢で、風邪ネタでした。私もリアルに風邪気味ですww
こんなものでよろしければお納めください!
姫さま、リクエストありがとうございます!
08.12.21