所詮、杞憂
※同い年,恋人関係
6限の授業が終わってすぐに窪谷須はスマホを取り出す。
上手く机に隠して画面を確認すると『新着メッセージ 1件』の表示が。
送り主は同じクラスの氏名、窪谷須の彼女である。
『放課後一緒に帰る?』
それだけの短い一文ではあったがそれだけで思わず顔がにやけてしまう。
『もちろんだ』と送るとすぐに返事が。今度は可愛らしい犬が敬礼をしながら『了解!』とポーズを決めるスタンプだった。
緩んでしまいそうになる頬に力を入れなおし、平常心を装う。
まさか俺に女ができるなんてな…そんなことを考えながらつい数週間前のことを思い出す。
氏名は年の割に落ち着いていて、一歩引いたところから全体を見渡して行動するような女だった。
だからといって冷め切っているわけではなく。一緒になってバカもやるし、盛り上げることもある。
気づくと視界の端に入るよう目で追っている自分に気づかされることが多くなった。
俺は名のことが好きなんだと自覚してからすぐ行動へ移した。
瞬にも言われたが俺が思っている以上にわかりやすいアプローチをしていたらしい。
後から聞いた話だが、名自身も嫌じゃなかったらしい。
その結果彼女は俺の想いを理解してくれ、まぁ、一歩進んだ関係になれたというわけだ。
といっても清い関係で、手を握ったこともまだだ。
こうして1日の授業が終わる前にどちらともなく連絡を取り合い、時間を合わせて下校することばっかりだな。
流石に…もう良いんじゃねぇか?いや、せめて高校卒業して結婚するまでは……。
そんなことを黙々と考えているうちに終礼も済んでしまい、何ぼーっとしてるんだよと瞬に諫められる。
なんでもねぇよと流すと当たり前のように燃堂もやってきて、何をいうかと思えばラーメン食いに行こうぜ、と。
俺は返答に詰まった。なぜなら既に名と一緒に帰る約束をしていたからだ。
しかし最近はずっと彼女と一緒で、こいつらとつるんでない。
ダチのことも名のことも、どっちも蔑ろにしたくねぇんだが…さてどうしたものか…。
あー、そうだな…と言いよどんでいると握りしめていたスマホが小さく震える。
反射的に確認すると名からメッセージが。そこには『今日はそっちを優先してよ、わたしも用事あったの忘れてたんだ』の言葉が
申し訳なさそうに謝る猫のスタンプと一緒に添えられていた。
思わず名の方へ視線を向けると彼女は穏やかに微笑み、気にしないでねと目を細めた。
……なんだよ、聞こえたのかよ。
自分の女に余計な気を遣わせるなんて男じゃねえなと、頭をかいて瞬達に手を合わせて俺は謝る。
「わりぃ、今日は先約があるからよ。また明日でもいいか?」
「そうなのか?…あ……あー、ああ、なるほどな、亜蓮、わかった」
「お?どういうことだよチビ説明しろよ」
「バカ野郎!!あとで説明してやるから…じゃあな亜蓮、また明日行こうぜ」
燃堂は終始理解していない様子だったが、瞬に無理やり連れて行かれ、教室をあとにした。
じゃあなと手を振って、名を見ると頬を赤く染めて。明らかに嬉しそうな顔をしている。
そんな彼女を見ていると俺も嬉しくなってきて、にやけてしまいそうな口元を抑えながら席を立った。
「亜蓮くん」
2人でいるとき、名は俺のことをそう呼ぶ。
校門付近の植え込みに立っていると小走りで彼女が駆け寄ってくる。
おいおい、俺が教室出てからそんなに経ってないだろ。用事はどうしたんだよ、と尋ねると
明日でも大丈夫なの忘れてたの。と曇りない笑顔で答えられた。
なんとなくこのやり取りで、ああ気を使わせていたんだなと思った。
「じゃあ、一緒に帰ろ?」
「おう」
嬉しそうに微笑む名が可愛くて、気がつくと彼女の小さな手を握り締めていた。
ずっと触れたかったそれは力を込めると壊れてしまいそうなのに柔らかくて、ずっと触れていたいと思わせる魅力があった。
自分の指を絡めると、彼女も同じように力を込めてくれる。
さっきあれだけまだ駄目だだの色々考えていたくせにな。
それでも名の笑顔を見ているとそれだけで良くなってくる。まぁ、いいよな。
-------------------
窪谷須くんの愛は重い
2018.07.16