短編集 | ナノ


KOIBUMI

※同い年,クラスメイト



その日、PK学園高校2年巛組の氏名は酷く緊張していた。
理由は1つ。彼女が握り締めた淡い色合いの封筒だ。

早朝の下駄箱前でどうしたものかと体をよじりながら思い悩んでいた。


『窪谷須』と書かれた靴箱の扉を持ち上げては下ろし、という仕草を既に10回以上は繰り返している。
ちらりと時計を確認するとなかなかにいい時間。そろそろ決断しなければならない。

ええいままよ!と念じながら手紙を押し込んだ。

彼女は今日、意中の相手に思いの丈を告白する決心をしたということだ。

手紙には今日の放課後、校舎裏に来て欲しい。2人きりで話をしたいと書いた。
自分の名前を書くかどうかは最後まで悩み、悩みぬいた結果書くのをやめた。
手紙だけで自分の気持ちを伝える訳ではなく、あくまで呼び出す為だからともっともらしい理由をつけて。


「……読んで、くれるかな…窪谷須くん」


そうぽつりと呟いて足早に教室へ向かった。


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当事者である窪谷須と名にとっては非常に長い1日となった。
名は勿論、窪谷須にとってもそれは同じであった。

つい先日、異性からのラブレターと思いきや不良からの呼び出し状だったということがあり
今回もまたそのパターンなのか。それとも本当の恋文なのか判別できず、心中穏やかではなかった。

ようやくHRも終わり、下校・部活ラッシュに紛れて名は校舎裏へ急ぐ。
その瞬間を窪谷須に見つからないよう注意をしながら。


少し薄暗さのある校舎裏に先客はなく、気持ちの落ち着かない名は何度も深呼吸を繰り返し。
徐々に平常心を取り戻していく。

窪谷須くんがきたら何を最初に話そう、どう切り出そう。
彼は自分の気持ちを受け入れてくれるのだろうか。

そんなことを考えていると意中の相手がゆっくりとやってきたのだが、明らかに様子がおかしかった。

眉間には皺が寄り、両手はズボンのポケットに入り。相手を威嚇せんばかりの鋭い眼光を飛ばしながら現れたのだ。

既に数名と一戦交えてきたかのようなそんなオーラを纏っており、名は声をかけるのを躊躇った。



「……あ?氏?」



その代わりに口を開いたのは窪谷須の方だった。

悩んだ結果、自分に送られるのはやっぱり果たし状だろうと結論づけた窪谷須は
前回のように不意を突かれぬよう最初から殺気全開で向かうことに決めたようだった。

いざ指定された校舎裏へやってこればそこにいたのはクラスメイトの名。
別の意味で虚を突かれた窪谷須は思わず情けない声を上げてしまう。


「ひょっとして…この手紙、お前が?」

「…う、うん」


名は告白のつもりで。窪谷須は喧嘩のつもりでやってきたのだ。
相手の様子が想定外すぎた為に2人とも思考が一瞬止まらざるを得ない。

先に口火を切ったのは名だった。
想像の斜め上な事態が結果的に彼女の緊張をほぐしたということか。


「わたし、窪谷須くんに言いたいことがあって、手紙を出したの。


ずっと。ずっと、窪谷須くんのことが好きで。

友達思いなところも、楽しく話してるところも、全部好きなの」


ふぅ、とここで一息。窪谷須が来るまでどうしようかと内心慌てていたのに。
名は自分自身が酷く落ち着いていることを認識する。

一番伝えたい言葉をどうするかあれこれ悩んでいたにも関わらず、それは思っているよりもすんなり出てきたのだ。



「だからね、窪谷須くん。わたしの、恋人になってください…!」



ぎゅっと拳を握り締めて伝えた気持ちは、しっかりと窪谷須へ届いたようで。
一拍遅れ頬を赤らめながら、名の手を優しく包んだ。





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全然斉Ψ夢が見当たらなくて……

2018.07.11


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