あなたに寄り添って
※恋人設定,主人公視点
※雄英寮入寮済
毎朝、踏陰くんとわたしは一緒に登校している。
同じ雄英高校に通っているけど、学科が違うだけで全くすれ違いもしない。
顔を合わせる機会があるとすれば朝の登校時か、お昼休み。それから上手く合えば下校のタイミングのみ。
2学期が始まって学生は雄英寮へ入ることになり、下校の時間もあまり一緒にいることが出来なくなってしまった。
だからこそ登校は一緒に、と約束をしていたのだけれど…今朝いつもの場所に彼の姿はなかった。
携帯電話を取り出してメッセージの有無を確認すれど何の表示もなし。
こちらからメッセージを送っても既読すらつかない状態。
もやもやした気持ちをかかえながら午前の授業をやり過ごし、昼休みはランチラッシュへ。
ごった返した食堂内をかきわけ、ヒーロー科A組の人が集まっているテーブルへ向かった。
もみあげの長い女の子…確か、麗日さん、だったっけ。彼女に踏陰くんのことについて尋ねると、風邪をひいて休んでいるらしい。
昨夜から調子が悪かったらしく、今朝起きたら悪化していたそうな…。
詳しく教えてくれた彼女へ丁寧にお礼を伝え、自分の教室へ戻った。
それにしても風邪か……よりによって今日体調を崩すなんて…持ってないなぁ、踏陰くん。
そんなことを考えながら、午後の授業を過ごした。
+++ +++ +++
「踏陰くん、誕生日おめでとうー……って、災難だね」
「名か……うつるぞ」
「むしろわたしにうつしてくれた方がいいよ、早く治ってくれるなら」
放課後、許可を取ってA組寮、彼の自室を訪問すると、真っ黒な室内で横になる踏陰くんがそこにいた。
流石に他科の寮へ入るのは緊張した…お昼に優しく教えてくれた麗日さんに口を利いてもらえたのは本当に助かった。
咳が酷いらしく、少し枯れた声をしている。
それなのに立ち上がり、お茶を淹れようとしたので「そういうのはいいよ」とやんわり制止した。
踏陰くんは「すまない」と申し訳なさそうに呟くが、わたしと踏陰くんの関係なんだからそこまで気にしなくていいと思う。
「病気の時は素直に甘えてくれていいのに」
「……それじゃあ、甘えてもいいか?」
「え?」
どうやらさっきの言葉は声に出していたらしい。
予想していなかった踏陰くんからの言葉に思わず素っ頓狂な反応をしてしまった。
ベッドに横たわる彼の顔を覗き込むと、踏陰くんは弱々しく微笑む。
「病気の時は、甘えてもいいんだろう?」
「……も……もちろん!
喉、痛いでしょ?すりおろしたりんごとはちみつ持ってきたから、いる?」
「ああ、頼む」
放課後、寮に戻ってすぐ作ったこれは小さい頃お母さんが作ってくれた特別なもの。
踏陰くんの好物であるりんごをすりおろして、はちみつと混ぜて温かいお湯で溶かす。
風邪の時はりんご、喉が痛ければはちみつがいいんだよと教えてくれたお母さんの言葉を今まで忘れずにいてよかった。
小さめのコップに注いで踏陰くんに手渡すと嬉しそうに微笑んだ。
今日はこんなことしかできないけど、ちゃんと改めてお祝いさせてね、踏陰くん。
ありがとう、大好きだよ。
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頭からすべり込むタイプのスライディング。
2017.10.30