短編集 | ナノ


みんなでむかえて



名は立っていた。久しぶりに帰る、血盟軍屋敷の玄関前で。

凡そ半年ぶりの帰郷である。
広い庭も、大きな建物も、全てが懐かしく思え、感慨深くなってしまう。

すぅ、と一つ大きく息を吸い。

ふぅ、とゆっくり。それでいて長く息を吐き出す。一本の線のように吐いた息。
それと一緒にそこはかとなく自身を襲う緊張感も追い出してやり、ガチャリと扉を開いた。




「……はい?」



扉を開けた名は「ただいま!」と言う気力すらうせてしまっていた。

何故なら、余りにも室内の雰囲気がおかしかったからである。


あちこちに置かれている正月の飾り物。
何故日本スタイルなのかというツッコミよりも、湧き上がる疑問。




「…もう、年が明けてかなり経ってる…よね…?」




名はぽつりと一人ごちる。
それも無理はない。季節はもう初夏。新年が始まって既に何ヶ月も経っているのだ。
なのにどうして、何故この屋敷内はこうも新年ムードに包まれているのだろうか。という疑問でいっぱいになっていると、やたらとテンションの高い我等がリーダーの呼び声が響いた。




「名ッ!!!!あけましておめでとう!!!!」



その一言で全てを理解できたような気がした名であった。






 * * * * * *




ソルジャーやニンジャ、バッファにアシュラにブロッケン…血盟メンバー全員が袴姿となっている。

食卓に出されたメニューは言わずもがな雑煮と正月料理の数々。
久しぶりに口にするニンジャの料理に舌鼓を打ちつつ、名はどうやってこの状況にツッコミを入れようかで悩んでいた。

彼女の内なる葛藤を知ってか知らいでか。ソルジャーたちは名の留学生活がどうだったのかなど、絶えず尋ねている。


「いやしかし、名が居ないと屋敷に華がなくて困るな!」

「確かにそうだな。野郎まみれの屋敷なんてもう勘弁だな」


ソルジャーとバッファが豪快に笑いながら今までの生活について語り合う。




「あの、どうしてこんなお正月な雰囲気なんですか?」




と、尋ねると二人の表情が凍りついた。





「…まぁ、当然の疑問でござるな…」


食器を片付けながら、ニンジャはぽつりと呟いた。

彼自身もこの状況にツッコミを入れたくて仕方なかった模様である。
だがソルジャーとバッファはそのような疑問を抱かれるとは考えていなかったためか、凍結してしまったというわけである。


「今年の新年には名が居なかったからな。どうにも新しい年を迎えた気分にならなかったんだ」


詳しい解説役を買って出たのはブロッケン。彼もまた、袴に身を包み、普段の軍服とはまた異なる印象を与えている。


「やっぱり、全員で迎えるもんだろ?新年ってさ」


少しはにかみながら、ブロッケンは名にそう言った。

皆が自分のことを待っていてくれたことが純粋にうれしさを感じ、名は目頭が熱くなるのを止められなかった。
普段とは違ういでたちのメンバーに、ドキドキが止まらないということもあるのだろうか。


「(…どうしよう…凄く、嬉しい…な…)」


名は超人ではない。彼らと共にリングで闘うことはない。
しかし、血盟軍の屋敷に置いてもらっている。それがとても悔しくて、申し訳なくもあった。

ゆえに空き時間を見つけては医療の勉強をしてきた。それによって少しでも皆の役に立ちたいと思ってきたからだ。


皆の役に立とうと思っていたが、そのための留学で皆に迷惑をかけてしまうことは分かっていた。
自分の我儘で迷惑をかけてしまう。分かっていた。だけど、それでも自分を、名のことを血盟軍の一員としてみなしてくれる彼らに酷く感謝していた。


「ほら、食えよ、雑煮。ニンジャの渾身の出来らしいぜ?」


にこりと微笑みながら、ブロッケンは名に椀をすすめる。
久しぶりに嗅ぐ日本料理の香りに懐かしさを覚える。


「みんな、ありがとう」

知らないうちに涙が浮かんでいたようだ。
酷く声が震えてしまった。

しかし皆笑顔で受け入れて。やっぱり嬉しさがこみ上げる名であった。






 * * * * * *



食後はやれお年玉だの、福笑いだのと、やたらと新年行事をやりまくり。
最終的には酒が入ってきてよくわからないテンションとなってしまった。


「やれやれ…結局酒に走るんだな…」

呆れたようにブロッケンが呟く。
あはは、と乾いた笑いを返すのは名。

二人は酒の入った宴会をこっそり抜け出し、ブロッケンの部屋へ逃げ込んでいた。
逃げ込む、という表現はおかしいのかもしれない。だがしかしあの空間に長時間居ては、確実にブチ切れたニンジャにボコボコにされるだろうと思ったからだ。

それほどに凄惨な状況だったのだ。


「ソルジャーさんにバッファさん、大丈夫だといいけど…」


「大丈夫だろ。アシュラマンが上手い具合に止めてくれるって」



「…他力本願だよ、ブロッケン…。。。大丈夫かなぁ…ソルジャーさん達…」


「……」



ソルジャーの名が出てきた瞬間、ブロッケンの顔が一気に暗くなった。
しかしそんな変化に気づかない名はあとでこうしようだのどうだのを考えている。

それが面白くないブロッケンは、ベッドに腰掛けた名の肩を掴み、半ば無理矢理に自分自身に意識を向けさせる。


「え、どうしたの?」

「…折角半年ぶりにあえたんだから、二人きりの時くらい俺のことだけ考えてくれよ…」


切なげに紡がれた言葉に答えるよりも早く、ブロッケンの唇で名自身のそれをふさがれた。



わざとちゅっ、とリップ音を立てて、口づける。



「…やっと、俺を見た」



嬉しそうに呟くブロッケン。そんな彼がとても愛しくて。
名は小さく、ごめんね、と呟いた。


「二人きりなのに、ごめんね。ブロッケン」


「…」


ちらりと彼の顔を見つめた名。ブロッケンの表情は悪戯っこのように微笑んでおり。
どうやっていじめてやろうかを考えているようなものだった。



「…許してやらないぜ」



「…どうしたら許してくれるの?」



「そうだなぁ…」



うーん、と考えるそぶりを見せて、ブロッケンは彼女の隙を見つけてとん、と。
ベッドへと押し倒す。


「きゃ…っ!」


いきなりのことに驚きの隠せない名。流石にこの展開は読めていなかったようである。
彼女が呆然としているのをいいことに、ブロッケンは先ほどよりも深く口付ける。

呼吸をする暇も与えないくらいに激しく、深く。




「…っ…んぅ…」




時折もれる声が官能的で、ブロッケンは神経から直接甘い刺激を受けているような気がした。





「…許して欲しかったら、今夜絶対俺の傍から離れないでくれよ?」






どうやら、長旅から帰ったというのに。

今夜はゆっくり出来なさそうである。







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2600キリリク「血盟軍あけおめネタ、Jrオチ」小説でした!
花暖さま、いかがでしたでしょうか??
ブロッケンの口調ってこんなんだっけ?とガタブルしながら書いてました…。。。

しかもリアルに時期的にはかなり遅くなってしまったので、こういうネタでする。あががががg

こんなものでよかったらお持ち帰り下さい★リクエストありがとうございました!!

09.05.05


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