petite pause
※主人公視点,年下
※恋人同士
午後3時。
いつもこの時間になると、事務所の所長でもあるベストジーニストさんは一度小休憩を挟んでいる。
10分…いや5分にも満たないわずかな時間ではあるものの、その後の業務を円滑に進めるために必要だとは本人のお話。
そんな大事な時間に必要なお茶と菓子を用意するのもわたしの大切な仕事の一つ。
コーヒーでも紅茶でも美味しく飲んでくださるけど、今日はなにを入れようかな。
ちょうど雄英からの職場体験受け入れで忙しかったから、少しでもリラックスしてもらいたいな。
そう思いながら給湯室の戸棚を物色する。どうしようかな、今日は紅茶にしようかしら。
ふと、アールグレイの茶葉が目に入る。
ベルガモットオレンジの香りが、きっとリラックス効果をもたらしてくれるはず。
……喜んでくれるといいなぁ。
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ちらりと時計を確認して、時計の長針がぴったり12を指したところで所長室の扉を規則正しく3回ノック。
少し間があいて、中から短く「どうぞ」の声がかけられる。
失礼します、と断って入室すると沢山の書類に目を通すベストジーニストさん。
あの書類は…きっと職場体験受け入れに関するものだ。雄英の1年生を1人迎えることになると。先日の朝礼でお話されていたし。
「ベストジーニストさん、書類確認お疲れ様です。
今日はアールグレイの紅茶をお持ちしましたよ、少し休憩されてはいかがですか?」
「ああ、ありがとう名。もう少しでこの書類に目を通し終わるから、それからいただこう。
……事務の仕事は今たてこんでいるか?」
「そうですね…備品発注は済ませましたし、今日の業務は一旦落ち着きましたよ」
そんなやりとりをしながら、わたしは紅茶のセットをすることに。
書類チェックの邪魔にならないよう、確認済の書類を規定のボックスへうつして、食器の準備を進める。
真っ白な陶器のカップに濃い琥珀色のお茶を注ぎ、併せてお菓子も添える。
よし、これで準備は完了。
視界の端に映るベストジーニストさんの持っている書類は最後の1枚みたいだし、いいタイミングで飲んでもらえるかしら。
「名」
不意に名前を呼ばれて思わず体が硬直した。
だってその声が、上司から部下にかけるようなものじゃなくて。
…恋人に対して呼びかけるような、そんな少し甘い声だったから。
「少しだけ、私の休憩に付き合ってくれないか?――…構わないね?」
有無を言わせない問いかけ。
わたしに確認をとっているようで、その実は違う。
わたしがノーと言えないような。そんな確認の仕方だもの。
「それに名。ここは確かに職場だが…2人きりの時は名前で呼んでくれないのか?私と君は恋人同士だろう?」
蛍光灯と窓から差し込む太陽光を受けてきらきら輝くブロンドヘア。
その隙間からちらりと見えた碧の瞳は優しさに揺らめいていて。
ぐわっ、と。心臓を鷲掴みにされてしまう。
こんな聞き方をされたら、断れるはずがないもの。
「つ……つなぐ、さん……」
「上出来だ」
そう言ってベストジーニストさん……いいえ、維さんは嬉しそうに瞳を細めた。
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2017.07.11