瞳にうつして
※主人公→ジャック
※主人公視点
※世界観的にカタカナ名推奨
『ゴォール!!本日のレースを制したのはジャック・レビンのアストロロビンです!!
ジャック選手、満面の笑顔で観客席へ両手を振っています!!!』
ミスターゼロの声がレース上に響き渡る。
マシンから身を乗り出し、手を振っている金髪の男性。
ずっとずっとファンだったジャックさんが、今日レースで1位を勝ち取った。
遅れてゴールしたライバルのリュウさんにニヤニヤとした笑みを浮かべるジャックさんは本当に嬉しそう。
いつもは恥ずかしくて駆け寄ってお祝いすることもできなかったけど。
今日はそんなこと言っていられない。最近の戦績から考えて、そろそろ入賞されるんじゃないかと思って。
表彰式終了後、こっそり用意していた花束を携えてジャックさんのもとへ駆け寄った。
観客席から降り立った時にはもう沢山の女性ファンに囲まれていて、ジャックさんのもとへたどり着くのは少し骨だったけれど。
彼をイメージした青と黄色でまとめられた花束をお祝いの言葉と共に渡すことができた。
「ジャックさん!今日は優勝おめでとうございます!」
「ああ!ありがとな!!…お、いい色合いじゃんこの花束。サンキュ!」
真っ白な歯を見せて微笑むジャックさん。
間近で見る彼は、それはそれはかっこよくて。わたしはもうその笑顔だけで天にも昇りそうな気持ちになった。
これからも頑張ってください!ともう一言かけようと思っていたけど、ジャックさんは踵を返してマシンのもとへ帰っていく。
「あっ……」
もたもたしているうちにどんどんジャックさんの姿は小さくなる。
思わず伸ばした腕は空を掴むしかなく。
(でもはじめてちゃんと花束も渡せて、少しお話もできた…)
ジャックさんの笑顔を思い出して、思わず頬が緩んだのだった。
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「それでね、マスター。この間のレースではじめてちゃんとお祝いできたんですよ」
「ほほぅ、それはそれは。本当に良かったですね。ジャック君も喜んでいたんじゃないですか?」
「いい色合いの花束だなって言ってくださったんですけど、どうでしょう?社交辞令だと思うけど、それでも嬉しいですね」
あれから数日後。
興奮冷めやらぬまま、わたしはファルコンカフェを訪れていた。
マスターの淹れる美味しい珈琲を飲みながら、先日の報告をしていたのだ。
このカフェにはわたしのようなF-ZEROファンからパイロットまで幅広い人がお客として通っている。
聞き上手なマスターについ色々と相談してしまっていたのだ。勿論、なかなかジャックさんにお祝いの花束を贈れない云々も。
ゆっくり深呼吸をして、珈琲の香りを体の奥深くまで楽しむ。
そして思い出す。この間のジャックさんのあの笑顔。
―…欲を言えばもう少しお話したかったけど、でもやっぱりジャックさんかっこいい。
花束だって気に入ってもらえたみたいだし、一生懸命選んで本当によかった…。
そんなことを考えていると入口から鐘の音。
「マスター、こんにちは。いつもの頼むよ」
来店したのはがっしりとした短髪の男性。
「リュウさん、いらっしゃい」
数ヶ月前、彗星のごとく現れたF-ZEROパイロット、リュウ・スザクだった。
彼もこのカフェの常連さんらしく、マスターの真正面…すなわちわたしの2つ隣の席に腰を下ろして珈琲を待つ。
まさかリュウさんに遭遇するなんて…。と、いうことは…リュウさんと仲がいいジャックさんとももしかしたら偶然会えるかもしれないっていうこと?
もしそうなら…嬉しいなぁ。「この間の花束の!」なんて覚えてもらえてたらどんなに嬉しいだろう。
それがきっかけで恋人になれたりなんかしたりして…やだもう、そんな都合のいいこと起こるわけない。
でも、想像…もとい妄想するのは自由だよね。
「随分楽しそうだね」
不意に、そう話しかけられた。声の主は隣に座ったリュウさん。
思わず彼の方へ向き直り、遅れて羞恥心がやってくる。
そんな、声をかけちゃうくらい変な顔してたのかな?
顔面に熱が集まり、わたしは両手で頬を隠した。
どうやらそんな様子もおかしかったらしく、リュウさんは快活に笑い飛ばす。
「ごめんごめん。変な顔をしてたとかそんなんじゃないんだ。
ただ、すごく幸せそうな顔をしてたから、つい」
「そ…そんなに、でしたか?」
「そんなに、だな」
にやり、といたずらっ子のようにリュウさんは微笑む。
なんだかその様子がおかしくて、思わず笑い出してしまう。
こんな一面も持ってたんだ、この人。すごく真面目な人だと思っていたけど、そうでもないらしい。
ひとしきり笑い合って、改めて自分がF-ZEROファンで、いつもレース観戦に行っていることを明かした。
他にも色々…レースでの感想とか、その時の観客席の様子だとか。色々と。
…目の前にパイロットがいるのに、別の人のファンです!とは言えないから黙っておこう。
そう思っていると、ティーカップを洗いながらマスターが茶化してくる。
「名さんはジャック君のファンのようですよ、リュウさん」
「そうなのか。ジャックじゃなくてすまないな」
「いえ!そんなことないですって!…もう、マスター!!」
「ははは、申し訳ありません。…おや、噂をすれば、ですね。いらっしゃい」
カランカラン、と聴き慣れた鐘がなる。
マスターの声に促されるように、視線を入口へ向けると、眩しいくらい鮮やかな金色の髪が目に入った。
「よぉマスター、リュウいるか?」
聞き間違えるはずがない。少しハスキーな声。
そこにいたのはジャック・レビンその人だった。
予期せず憧れの人と遭遇してしまうと、思考回路は完全にショートしてしまうみたい。
ただただ何も言えず、真っ赤な顔をして俯くことしかできなかった。
「ああ。どうした、ジャック」
「………いや、招集がかかったから戻ってこいっていう話だったんだがよ。
隅に置けねぇな。デェト中に悪かったな」
吐き捨てるようにジャックさんはそう言い放ち、踵を返し大股で出て行ってしまった。
リュウさんは「はぁ?!」と素っ頓狂な声を上げて、わたしに一言断って彼のあとを追いかけていった。
カランカラン、と乾いた鐘の音が。右から左へ抜けていく。
…さっきの、ジャックさんの一言が頭から離れない。
デェト中に悪かったな、って。それってひょっとしなくても…
「―ふむ、どうやら。ジャック君はリュウさんと名さんがお付き合いをしていると勘違いをされたようですねぇ」
いつの間にか戻ってきていたバートさんが、どこか楽しそうにわたしの心中を代弁する。
「や、っぱり…そうですよね…どうしよう…」
誤解をときたいのに、当然連絡先なんて知らないし。
そもそもわたしのことを覚えているなんていう確証だってないわけだし。
ジャックさんからしたら、いきなりよくわからない女が現れて「リュウさんとは付き合ってないです!」なんて言ってきたら
気持ち悪いだろうし、そんなの知らねぇよってことだろうし…でも、勘違いされるのもなんだか嫌だし…
「ま…マスター…どうしましょ…」
「それは私が決めることではないでしょう、名さん?ご自身で考えないと。
…そういえば、さっき見えたジャック君はとてもイライラしたような、気に入らないものを見たような表情をしていましたよ?
まるで自分が気に入っていた料理を別の人に横取りされたみたいな顔、でしたね」
「そ…うだったんですか?」
「ええ、そうでしたよ。だから、あまり悲観的になりすぎるのもいかがなものかと、私は思いますがね?」
勇気づけてくれるようにマスターはお茶目にウインクをする。
…全然知らない人だったら、イライラしない、よね…?
それってつまり、少しは期待してもいいってことなのかな?
もしそうなら、わたしは……。
「…マスター!!あの、ジャックさんの連絡先って、ご存知ですか?!」
ぐだぐだ考えて動かないのは、もうやめる。
勇気を出して、一歩を踏み出さなきゃ…!
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誰得な上に続きます。
バートさんに励まされたい選手権にエントリーしたい。
2017.05.31
※2017.07.10一部加筆修正