短編集 | ナノ


君がいれば百人力


※全員中学2年生
※内田→夢主→真田の一方通行片思い
※相変わらず自己満足更新すみません





「ちょっと真田くん。数学の課題、出してないのあと真田くんだけだよ」

「なんだ氏か…っるせーな…別にいいだろー?」

「よくないよ!真田くんが出してくれないと全員分揃わなくて、わたしが先生に叱られるんだから!」

「そう言われても。じゃあさ、氏が俺の名前で課題やって出しといてよ!」

「だーめ!自分でやらなきゃ意味ないじゃん!…ってちょっと真田くん!まだ話は終わってないよ!」


問い詰めているうちにいつの間にか真田くんの背中は遠のいている。
すぐさまおいかけようとしたものの、捨て台詞のように投げかけられた「そんなカリカリしてたら彼氏できねーぞ」なんて軽口に足が止まる。

その場で立ちすくんでいるうちに真田くんはどんどん遠くへ行ってしまって、いつの間にか視界から消えていた。

彼氏できねーぞ、かぁ。わたしは思わずさっきの言葉を反芻する。
そんなこと言われても、余計なお世話だし。っていうか真田くんからそんなこと言われるとちょっと凹むんだけど。
思わずため息が漏れる。ただのクラスメイトとしか思われてないっていうことなのかなぁ…。


「なーにしょぼくれてんだよ名。
 つーかお前いくらなんでもあーいう言い方したら真田は躱すに決まってンだろーが」

立ちすくんでいたわたしの背後から声をかけられる。
声の主なんて、振り向かなくてもわかる。

視界の端にさらりとした黒髪が見えた。

「名もな、もう少し可愛げもって接したら真田のバカも振り向くんじゃねーか?」

声の主である彼・内田稔は心底呆れたようにわたしのことを諌めてきた。

「稔……そ、そんなこと言われても……。恥ずかしいもん…」

「俺に今みたいなしおらしいカッコしてどうするよ…。
 アイツの前でやってみせりゃあ可能性もあるだろうに」

ヤレヤレ。と外国人のようなリアクションを幼馴染は見せた。
幼い頃からずっと一緒にいる彼はわたしのよき理解者ともいえる存在だ。

平成学園に入学後、しばらくしてわたしに好きな人ができて、その時相談したのももちろん稔だ。
幼馴染だから、頼りにしてるからでもあるけど、一番の理由は稔が片思いの相手と同じ部活に所属していたから。


…真田俊彦くん。
わたしや稔と同い年の体操部員。
目立ちたがり屋で軽薄そうなイメージが先行する彼だけど、本当は、違う。
誰よりも練習熱心で、努力を積み重ねるストイックな人。
ひょんなことからその姿を見てしまって、ずっと目が離せなくなったの。

こんなにも一人の人を好きになるというか、熱中してしまうのは初めてで。
混乱から、思わず稔に相談していた。今までずっとそうだったように、稔と共有すれば打開策が見つけられるんじゃないかとそう思ったから。

初めての感情をうまく処理できず、しどろもどろになるわたしの話を、稔は根気強く聞き続けて。
ただ「協力してやるよ」と一言告げてくれた。

それからというものの、稔はこれでもかというほど助けになってくれた。
うまく立ち回り、真田くんとわたしを引き合わせたり、体操部の大会に呼んでくれたり、エトセトラエトセトラ…。

稔のおかげで真田くんとも話せるようになったし、他の体操部の人たちからも覚えてもらえるようにもなった。

だけどいくら彼がお膳立てをしたところで、わたしの態度が問題なのだ。
恥ずかしさゆえに素直になれず、ついつっけんどんな態度しかとることができない。
稔から改めろ改めろと口酸っぱく言われているけど、簡単にできないからこうして苦労しているわけで…。

「俺がとやかく言うことじゃねーけどさ。名のいいところを真田が見てくれりゃあ大丈夫だと思うぜ?
 お前がいいやつだってことは、ガキの頃から知ってるし。この俺様が保証してやるよ」

「稔…」

ぽん、と慰めるように肩を叩く稔。
こんなに心強い幼馴染がわたしにはついているんだ、ということを今一度思い出させてくれる。

わたしのいいところ。
少なくともさっきまでみたいな、ツンツンした態度で接するようなところじゃないのは確か。
ちょっとずつ。ちょっとずつ改善していこう、そうしよう。
よし、と握りこぶしを作って気合を入れ直す。

「ありがと、稔。もうちょっと自分でも頑張ってみるね」

「おー。是非そーしてくれ。名の失敗談ばかり聞かされるこの俺の身にもなってくれよ」

笑いながら稔は茶化してきた。仰る通りで耳が痛いなぁ。
だけどさっきほどチクリとは来なくて、わたしは笑顔で応えた。




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片思い成就ルートと幼馴染ルートの重要な分岐点ですよ……。

真田先輩も内田先輩も大好きすぎるゥゥ

2016.08.20


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