短編集 | ナノ


とくべつだもの

この年齢にもなって正直恥ずかしいのですが…。

わたしはとても怖がりで、…その、あの…ホラー映画や真夏にあるような心霊番組、オカルトちっくな番組なんかがとても苦手なのです。

苦手なだけならまだ大丈夫なんですけど…えっと…そういうものを見た後、一人で、眠れないんです…。

と、いうことを知ってかどうなのかは分かりませんが。
ソルジャーさんが血盟メンバー全員に強制的に見せたホラー映画のせいで案の定わたしの恐怖は最大になってしまった。


「それにしても…色々な国のホラー映画を意味も無く検証してみたわけだが…中々面白かったな」

はっはっは、とグロテスク・スプラッタ・サイコホラー等様々な映画を見たにも関わらず、そんなの関係ねぇ!といわんばかりのテンションを保つソルジャーさん。
意味も無く流したんですか…と、ついついそこにツッコミを感じずにはいられない。
それだったらわたしは巻き込まないで欲しかったです…とは格好もつかないので口には出さなかったのですが。

けど冷静に考えてみれば他のメンバーが全員集まって映画を見ているわけで。そうなるとわたしは一人きりになってしまうわけで。


(そっちの方がもっと嫌だもん…)


一人きりになってしまうことのほうが嫌だったので、なけなしの勇気を振り絞って、他の皆と一緒に映画鑑賞と決め込んだのだけど…。

…見るんじゃなかった、というのが素直な感想だ。

ソルジャーさんの集めた映画は本数自体は少なかった。
だけど各々に強烈な恐怖シーンがあって、あまりの怖さに自分自身の悲鳴すら上げることができなかったくらいだ。


1本目を見終わったときに部屋に戻ることも出来たのだけど、そうすると必然的に部屋で一人になるわけで。そんなこと耐え切れない!と思った結果。
全部の映画を最後まで見てしまう結果になったのです。

だけど2本目の映画からは怖くて怖くて仕方なかったから、こっそりとニンジャさんの近くに座ってみることにした。

映画が始まる前に小声で「服とか掴んじゃったらごめんなさい」と、予め謝るとニンジャさんは柔らかく微笑んで「好きなだけ掴むでござるよ」と了承してくれた。
その言葉に甘えて、彼の装束に異様なまでの皺を作るくらい掴んだのは、此処だけの話です。


びくびくしながらも思いつきで開かれた映画鑑賞会は終了し、ソルジャーさんにアシュラさん、バッファさんにブロッケンさん達はあーだこーだと話しながら部屋に戻っていく。



わたしは恐怖の余韻が中々引かなくてその場に座り込んでしまったために、気づいたらわたしとニンジャさんの二人きりになってしまっていた。


「全く…どいつもこいつも行儀が悪いでござるな。茶も茶菓子もせびっておきながら、片付けることなく帰っていくとは…」

名、と不意に名前を呼ばれてわたしは一瞬反応を遅らせてしまう。
ややあってゆるゆるとニンジャさんのほうへ顔を向ければ、「あやつらの後片付けをするから先に部屋に戻るでござるよ」とのこと。

つまり、一人きりになってしまう、というわけで。

その事実を認識したわたしは、頭で考えるよりも身体が反応して。
無意識のうちにニンジャさんに抱きついていた。

一人にしないで、お願いします。

そんな声にならない願いを込めながら。


流石にいきなり抱きつかれて驚いたのか、ニンジャさんが息を呑んだのが聞こえた。
わたし自身、とても大胆なことをしていることは分かっている。
だけどそれよりも、一人残される!という恐怖の方が遥かに勝っていた。



「名、お…落ち着くでござるよ?」


「わたしはおちついてますよ…」

嘘。

そんなのは真っ赤な嘘。
だって自分でも声が震えてしまっているのが嫌と云うほどわかるから。

もしも落ち着いてたらこんな行動なんてとらないんだろう、と思いながらもわたしは両腕にこめる力を弱めることはできなかった。
初めて触れたニンジャさんの身体は思ったとおりがっしりしていて、それでいて不思議と安心感を与えてくれた。

ぎゅっと抱きしめて、顔を埋める。すぅと息を吸えば彼の香り。
ほんのりと漂う不思議な御香が鼻孔をくすぐる。

それにまたどきりとして、恐怖とはまた違った理由でわたしの心臓はどくどくと動き続ける。



「む…名…、そんなに離れたくないなら、食器の片付けを手伝うでござるよ」


あ、わたし…何も考えずにこうしていたけど、ニンジャさんのお仕事の邪魔をしちゃってたんだ…。
それを認識してからの行動は早かった。

ばっ、と身を離して言われたとおり彼の手伝いをする。皆がそのままにしていたティーカップやグラスをお盆に載せて流し場へ。
食べ切れなかった茶菓子やおつまみもラップで包んでしかるべき保存場所へさくさくと片付ける。
ニンジャさんは流し場でわたしの運んだ食器を洗っていたけど、わたしが映画を見て怖くなっていたことを分かっていてくれたから。
なるべくわたしの視界にいてくれるようにさりげない配慮をしてくれた。

そのおかげか、先ほどまでの恐怖はあまりなく、スムーズに仕事を手伝うことが出来、結果少量の洗い物はきれいに片付いてしまった。


「全部終わりましたね、ニンジャさん」

「ああ。名が手伝ってくれたからでござるよ。ありがとう」

にこりとニンジャさんがほほえむ。
お礼を言われちゃったけど、一緒に居させてくれたからむしろお礼を言いたいのはわたしの方かもしれない。


「では夜ももう遅い。早く部屋に戻って眠るでござるよ」


わたしがお礼を言うよりも先に、ニンジャさんからの一言。

今ならさっきみたな怖い気分はなくなってるし、きっと、安心して眠れる。



「ありがとうございます、ニンジャさん。その、あの…さっき抱きついちゃってごめんなさい…それじゃ、おやすみなさい!」


抱きついちゃって、なんて言葉に出したら一気に恥ずかしさがこみ上げてきてくるりときびすを返して部屋に走って戻った。


どきどきがとまらないけど、けど、さっきみたく怖い感じは全然無くて。
きっとこの胸に湧き上がる、あったかい気持ちを抱きながら眠れるだろうなぁとわたしは考えた。



部屋に戻って拙者は長く息を吐いた。
まるで糸を吐き出すかのように真っ直ぐ、そして長く。

溜息ともとれるこれの原因は名だ。


毎度のごとくソルジャー殿のよくわからない立案に仕方ないから便乗すると、青ざめた顔の名がいて。
怖いのを我慢しながら(あまり我慢しきれてはいなかったが)、拙者の隣に座り、映画が終わるのを必死に耐えていた。

そんな彼女に心臓は高鳴り続け、頬が朱色に染まらぬよう、全神経を集中させてグロテスクなシーンを食い入るように見た。


映画が終わっても名は恐怖がぬぐいきれなかったのか。
一人にされることを極端に嫌がった。
あんなグロテスクでサイコなホラー映画を連続で見てしまったためでもあるが。

だからといって、まさか抱きしめられるとは思いもしなかった。



背中に感じた名の感触はとても柔らかくて、それまで女性と触れ合ったことのなかった自分にはあまりにも刺激的だった。
見た目がとてもほっそりしている彼女の身体は、その…なんというか。しっかり女性としての柔らかさも持ち合わせていて。
当てられた胸の感触を思い出すと、自分自身が少し勃ち上ったのを感じた。


…名…。


彼女のことを思うと、全身の血液が沸騰したかのように熱を持ち始める。
鼓動が通常よりもはるかにハイスピードでリズムを刻み、なによりも愚息が情けなく異常なまでに反応を示してくる。



「(結局、俺も男の本能には逆らえないというわけか)」


やれやれ、とまた溜息を溢し。無理矢理に興奮を押さえつけ、床についた。


…のだが、丁度同じタイミングに自室の扉が叩かれた。



コンコン



控えめなノックの後に聞こえてきたのは、か細い女の声。
拙者の心を乱して仕方ない存在、名の声だった。


「あの…ニンジャさん…、起きてたり、しますか…?」


ドア越しにギリギリ聞こえるくらいの細い声。
集中しなければ聞き取れないくらいの声量。

それでもしっかり拙者の耳には届き、気がつけば拙者は扉を開けていた。

扉の向うにはゆったりとしていて、可愛らしいデザインの寝巻きに身を包んだ名が。
うっすらと目元には涙を浮かべ、自分の枕を大切なものであるかのように両手で抱きしめている。

そんな彼女の様子で、拙者はなんとなく経緯を理解してしまった。


…恐らく…


「ごめんなさい、遅くに…。あの、ニンジャさん…一人で部屋に居ると、なんか、その、怖くて…」


だから端っこでも構わないので一緒に居ても良いですか、とのこと。
予想的中というやつでござろうか。映画を見終わったときの様子を見ていればこの展開は読むことはできた。
それくらいに彼女は怖がっていたというわけだ。

しかし…名は自分の言っていることの意味が分かっているのだろうか。

一晩、男の部屋に、しかもそんな異性の性欲を妄りに駆り立てるような格好をして訪れるとは。


…ナニをされても、仕方ないでござるよ?


それを分かっているのだろうか。恐らくそんなことを考えるよりも先に恐怖心の方が勝っているのだろう。
純粋に拙者のことを頼りきった、小動物のような目をこちらに向けてくる。

夜中に男の部屋に入ってくるのはあまり宜しくはないが、しかし。



「(ここまで純粋に頼られるのも…その、悪い気はしないでござるな…)」



いかんいかん…自制心を持ち合わせておかねば顔の筋肉が緩みきってしまう…情け無い顔を彼女の前でしてしまいたくはないでござるからな。
無理矢理に自分の表情筋にしまりをもたせ、何事も無かったかのように名を部屋に招き入れる。

お邪魔します、とか細く言いながら入室する彼女も可愛らしくて、どきどきと鐘打つ心臓を抑えることは流石に出来なかった。


「本当にすいません、ニンジャさん…その、こんな遅くに…」


拙者のベッドに浅く腰掛け、名は心底申し訳なさそうに謝罪の言葉を並べる。
ふぁさ、と柔らかそうな髪の毛が一房肩からすべり落ちて、ちらりとうなじが顔を出す。
白い肌、艶やかな髪、鈴の音のような可憐な声。

先ほどの自制心はいずこ。早くも拙者は彼女の無意識の誘惑に負けてしまいそうだった。


…まぁ、負けぬでござるがな。
しかし名はもっと警戒心を抱くべきでござるな。こんなこと、拙者以外のやからにもしてしまってはけしからん。

「でも、ニンジャさんなら安心できますから…」

そういって名はほほ笑む。
それはつまり、拙者相手では警戒する必要がないということでござろうか。
そう考えると面白くない。拙者とて男。この屋敷では比較的そういう面は抑えてはいるが、あくまで抑えているだけで。本能は彼女を欲している。
なのだがこのことを名は理解していない。

「…面白くないでござるな」

えっ、と尋ね返されるよりも早く。その華奢な体を引き寄せて唇を強引に奪う。
触れるだけじゃない、舌と舌で互いをむさぼりあうキス。
歯列をなぞり、舌を吸い、唇を吸い。口内をこれでもかというほど犯しつくす。
名は鼻にかかったような甘い声を上げて、よわよわしく拙者の胸をたたく。
抵抗、しているのであろう。もしくはやめてほしいのであろう。彼女の意図はなんとなく予想できたが、拙者はそのすべてを黙殺した。

「名よ」

たっぷりと彼女の口内を堪能した後で、こう言い放つ。

「お前は、俺が男であるということを忘れていないだろうな?」

とろんとした目つきの名は拙者の問いかけの真意が理解できていないらしい。
依然ぼんやりとしたまま、荒い息を整えようとそれに必死だ。

そう。拙者とて男なのだ。夜分遅くにこんな恰好で部屋に来られては。


「―犯してくれと、言っているようなものだぞ?」

言い終わると同時に、ベッドへ彼女を押し倒した。


寝間着を無理やりたくし上げると、真っ白な乳房があらわになる。
一瞬その事態に驚きはしたものの。ためらうことなく手を伸ばし、揉みしだいた。

「完全に誘っているだろう?男の部屋に、下着をつけず入ってくるなんてな」

「んぁっ、ち…ちがい、ま…はァん…!」

「違わなくない。名よ、お前は本当はこうされたかったのだろう?ン?」

両の手からこぼれてしまいそうなその胸を上下に揺らし。桃色の先端部分をピンとはじいてやる。
どうやらそれはかなり良かったらしい。先刻とは違う、甘い声が名の口から漏れた。

「今お前がどうなっているのか教えてやろうか」

彼女が与えられる快楽に夢中になっていることをわかっていながら、言葉を紡ぐ。
耳に届いているかどうかなぞさしたる問題ではないのだが。今自分自身がどういうことをされているのか、事細かに言ってやればさらにいい顔をするのだろう。

特に理由はないが、俺はそう思った。

「名。お前は今、俺に犯されている」

左手はたわわな胸をもてあそび。一方の右手は下半身を責めていた。
さすがにショーツは身に着けていたのだが、それは本来の目的を為さないぐらいにぐっしょりとしていた。
ぷっくりとした部分を指の腹で押さえると、奥から液体があふれてくるのがわかる。
ぐちぐちとわざと大きな音をたてながら俺は手を止めない。

「乳首はこんなに固くさせて…乱暴にいじくられるのがイイのか?
それから…下のほうは大洪水だな…。厭らしい水音、聞こえるだろう?お前の体から出ている音だぞ?
…こうやって、男を誘惑して、こういうことを誰とでもしているのだろう?」

ぐちゅぐちゅとショーツの上から執拗な責めを続けていたが、よわよわしい声で、彼女が異論を唱えてきた。それはちがう、と。


「何が違う…?」

「誰でもいいなんてこと、ありませ…ん…ぅ…」


そして彼女は、覆いかぶさっている俺の肩に両腕を回す。
自分の方へ引き寄せ、心底愛おしそうに頬を寄せる。


「わたしは…、ニンジャさんが相手だから…だからこんなに甘えて」


「こういうことされて、うれしいって、思っちゃうんです…」



最後の方はか細く、耳を傾けていないと聞き取れなかったが。
彼女のその言葉に己の耳を疑った。

「こんなの。あなた、だけ…なんですよ…」


うるんだ瞳で見つめてくる名。

ああ、もう、これは反則だ。


そんなことを考えながら、拙者は再度彼女の唇を己のそれでふさいだのだった。

[ Novel Top // Index ]