短編集 | ナノ


どうして嫌いになれないの? 03

3.手を伸ばしても




「おーい!大地さんが肉まんおごってくれるってよ!」

『ほんとですか!?澤村せんぱい、ごちそうさまでっす!!』


いつもの練習終わり。
日々ハードになっていく練習内容。
選手みんなの瞳がギラギラして、『勝利』に飢えた獣みたいになっている。

だけどやっぱり男子高校生。
練習という時間が終われば年相応になってはしゃいでいる。

わいわい言いながら西日を浴びつつみんなで下校。
これも一種の青春タイムだなぁ、としみじみ思う。


「ほれ、これお前のぶんな」

『わーい、ありがとうございます!!』

にかっと笑いながら、澤村せんぱいはわたしにほかほかの肉まんを手渡してくれる。


……ただそれだけのことなのに。滅茶苦茶嬉しい。

手の中にある肉まんは、なんてことはない、普通のそれなのに。
この上なく高級で、特別な食べ物に思えてしょうがないの。

他の誰でもない、澤村せんぱいから直接もらったというだけで。



嬉しい。嬉しい。どうしようもなく、嬉しい。

思わず破顔してしまうと、田中がからかってきたけど、無視。



…だけど、こうやって澤村せんぱいがわたしに親しくしてくれるのは、今の関係性があるから。

同じ部活の選手と、マネージャーという関係性だから。
それ以外の何でもない。中学時代の上下関係も多少影響しているかもしれないけど、
一番大きいのはやはり、この部内の関係性だと思う。


ちょっと前だと、こうやって直接話せるだけで十分に満たされていたのに。


段々。
これだけじゃあ物足りなくなっている。

もっと近づきたい。もっと詳しくなりたい。

もっとわたしのことを知ってほしい。関心を持って欲しい。


―…貪欲に、澤村せんぱいのことを求めてしまっている、ようになっている。





だめ。これじゃあダメなの。

自制しなきゃいけない。


もやもやした気持ちを飲み込むように、大きな口を開けて、肉まんをほおばった。




ごくりと咀嚼したそれは、ただ美味しいだけじゃなくて。不思議な味がした。









     ちゃんと流れていっただろうか、このモヤモヤは。流れてくれないと、困る―……。







  どうして嫌いになれないの?/HQ 澤村大地
   永遠恋夢。



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普段の何気ない会話や、自分に対してなにかをしてもらったということ。
片思いをしているとそういうことでもどうしようもなく嬉しくてにやにやしてしまいませんか?
気持ち悪いニヤニヤにならないよう気をつけませう。

2015.6.26執筆

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