短編集 | ナノ


きみだけに

血盟軍の屋敷は広い。

常識的に考えてみれば、屈強な超人が4人も生活をしようというのだからある程度の広さを持った建物である必要があるが。
メンバーが屋敷全体の管理と清掃をすることができれば一番良いのであろうが。流石にそこまで行うことが出来るほどの余裕は各自にはなく。

屋敷には一人の少女が住み込みで働いていた。

その名は名。小柄な身体だが、家事能力は中々高く、常に柔和な笑みを浮かべながら仕事は迅速に的確にこなすという少女だ。


「ニンジャさん」


澄んだ声が、広い屋敷に響く。まるで鈴を転がしたかのような声色。
呼ばれた超人・ニンジャは無言でくるりと振り返り、鋭い視線で彼女を見つめる。
視線のせいもあってか、まるで睨みつけているように思えるほどだ。

そんな彼の視線を気にすることも無く、名はニコニコと笑みを絶やさない。


広い屋敷に居るのは名とニンジャの二人のみ。
他のメンバーはやれトレーニングだ、やれ情報収集だのと外出してしまっているのだ。
流石に女性である名を一人きりにしてしまうのは危険なのではないかという意見があがったため、ニンジャが留守番役として残されたのであった。


「あの、ちょっとお願いがあるんですけど…いいですか?」


名は少々躊躇いがちに話しかける。
丁度ヒマを持て余していたのか、フンと面白くもなんともなさそうに鼻を鳴らし。ニンジャはなんだ、と酷く無愛想に応えた。


「洗剤が無くなってしまって、ストックを取ろうと思ったんですけど、あの、その…えーっと…」


「…届かないのか?」

「…そう、です…」


どうやらストックの洗剤を棚の一番上のさらに奥にしまったらしく、どうにも手が届かず取れないようだということが判明した。
最初から手前に置けばよかっただろうと、ニンジャが痛烈な意見を述べたが、どうやら彼女自身がそこに置いたわけではないとのことだ。


心底申し訳なさそうにしゅんと小さくなる名を見ているとどうにも歯がゆいようななんともいえない感情を、ニンジャは覚えた。
その感情がとてもむずがゆくて、何故だかあまりはっきりと自覚をしたくなくて。

何処の棚にある、とぶっきらぼうに言い放ち。さっさと終わらせてしまおうと彼は行動することにした。


  *  *  *  *  *


「ニンジャさん、ここの棚なんです。ここの…いちばん奥です」



名が指差したのは高い高い棚の一番上。
なるほど。これはこの小柄な少女ではどうあがいても届くことはないだろう。

しかし名はなるべく自分でなんとかしようと奮闘したのだろう。
少し高めの椅子や、孫の手が置かれたままになっていた。

きっと彼女なりに一生懸命考えた結果の道具であろう。そんな彼女の姿を考えるだけで、ニンジャの胸中はほっこりと温かくなった。


そんなことを考えつつ、ひょい、と椅子に飛び乗り。目的であろう洗剤を手に取る。



「これか?」



名に確認を取る。透明な黄色の容器に入った洗剤を見せれば、それです、と。嬉しそうに名が微笑む。

ばかばかしい。たかがこんなことでこれほどに眩しい笑顔を見せるとは。

しかしそんな笑顔に骨抜きにされかけている自分自身がいることを、ニンジャは自覚していた。


「ありがとうございます、ニンジャさんっ!」


「…構わん」


本当は嬉しい、のだが。素直にそれは表に出さない。…出せないとも言うが。
彼女の笑顔に頬が染まるのを感じつつ、ぷい、と視線をそらす。


「これで掃除の続きが出来ます!それじゃあ、失礼しますね?」


ぺこりと頭を下げ、名は彼女の仕事を済ませに行こうとしたが。


「待て」


不意に、呼び止められる。


「どうか、したんですか?」


呼び止められて不思議な面持ちの名。



「…手伝おう」



その一言がニンジャにとっての限界だった。

その一言に、彼の気持ち全てを乗せて、言う。



どうやら名は彼のたった一言の裏に込められた感情を感じ取ったのか。

先ほどよりもさらに嬉しそうに微笑んだ。



「ありがとうございますっ」



その笑顔はどこかはにかんだようにも見えて。彼の目に愛らしく映った。




「…勘違いするなよ。お前はきちんとしているようで鈍臭いところがあるからな。監視だ」


「はい」


「あと、何か届かないものがあったらいつでも言え」


「そうさせてもらいますね」


「……なにを笑ってるんだ」


「だって…ニンジャさん、とっても優しいんですもんっ」


と、名は一番の笑顔を見せて嬉しそうにそう言った。




-+-+-+-+-+-+-+-+-

2500番キリリク「残虐チームに参加するかしないか位のタイミングのクールなニンジャ」でした。
…クール?ダディクール?←違う
なんだかクールな男は難しいです。何故か微妙にツンデレ臭いですね。何故でしょう。
そこはかとなく無言即殺の人みたいですね。気のせいですよね。気のせいだ。

この一件があってから段々ニンジャがまるくなっていくんですよwきっとww

ムートン様、リクエスト有難うございました!
消化の方が大変遅くなってしまい、申し訳ありませんです。。。

09.05.04


[ Novel Top // Index ]