短編集 | ナノ


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 ※三井視点
 ※同い年








この上なく美人だとか。

テレビでよく見かけるアイドルみたいに可愛いとか。

そういう理由じゃなくて。
…笑顔。そう、笑顔だ。

友達と談笑している姿をちらりと見ただけだったが、
上品さと清楚さを匂わせるような。可憐な、微笑み。


同じ高校生とは思えないようなその柔らかな笑みに俺は一瞬で虜になった。


これがいわゆる「一目惚れ」だということをしばらくの間俺は認めなかった。

というよりはこれがその現象を指していると自覚していなかったというのが正しいところか。



問題は彼女が一体どこのダレなのか、雲をつかむように情報がないことだった。

はじめて会ったのがつい1か月前、移動教室の道中だったから…多分同じ学年だとは思うんだが。

だからといって諦められるわけもなく。
はじめて会った時みたいに、もう一度会えることを期待している俺がいた。


…スーパースター・三井寿が聞いて呆れるぜ。
ああくそ、情けねぇ。

行動を起こしたくても具体的に何をすればいいのか検討がつかない。
思いだけがいたずらに募って、俺は本来こんな男じゃなかったはずだと。自分自身への苛立ちが積み重なっているのを実感した。


なんだが人生何が起こるかわからないもんだと改めて俺は思う。
どうしてかって。あれだけ会いてぇなと思っていた彼女にもう一回会えたんだからな。




「公延くん!ごめん、世界史の資料集貸してくれないかなぁ?」

「どうした名。ロッカーにおいておかなかったのか?」

「あはは…ずっとそうしていたんだけど、昨日持って帰ったらうっかり部屋においてきちゃって…」

「はは、なんだそれ。名らしいけど…ちょっとまってくれ、とってくるよ」


ありがとう!と破顔しながら嬉しそうに彼女は木暮の背中を見送った。
その一部始終を見届けた俺の脚は、考えるよりも先に動いていた。木暮のところへ、だ。

おい、と声をかけるといきなりのことで驚いたらしい木暮は。変な声をあげながら振り返る。

「なっ、なんだよ!三井じゃないか!どうしたんだ?」

…そう聞かれても…。
流石に答えに迷った。木暮が「名」と呼んでいた女のことを教えてくれとは流石に言えず。
適当な言葉で濁していると、背後から鈴を転がしたような声をかけられる。

振り向かなくてもわかった。彼女だ、と。


「公延ー……ってあれ、えっと、三井くん?」

「―ッ!!!???」

「ああ、名、ごめんすぐ出すよ」

「ほんとごめんねぇ、ありがとう!」


ぱん、と眼前で手を合わせて謝罪のポーズを取る彼女。
それを眺めて木暮のやつは慈しむように目を細めて資料集を取り出した。
受け取った名はぱぁっと笑顔になり、さすが公延!と歓喜しながら小走りになって自分の教室へと戻っていったのだ。

木暮だけじゃなく俺に対しても、またね!と手を振りながら。



いきなりの遭遇で全く言葉を交わせなかった俺はなんて情けねぇんだ。
コートの上じゃあここまで一歩引いたスタンスじゃなかったはずなんだがな。なんてこった。

しかし疑問が一つ浮上する。
なぜ、名が俺のことを知っていたか、だ。

ちらりと見えた時計の針。次の授業が始まるまでまだ時間はある。



「…おい木暮」

「どうした三井」



…こうやって彼女のことを木暮に聞くのは、俺があいつのことを意識していると。
小暮に知られてしまうんじゃあないだろうか。そんな考えが一瞬よぎる。

なんだこれ。カッコ悪いじゃねえか…。

それでも、やっぱり彼女のことが気になるという気持ちの方がでけーし、強かった。


「……さっきの、名って呼んでた女。なんで俺のこと知ってたんだ?」




…これはこれで、聞きたかったことだからな。
二番目にだけど。




「なんで、って。俺と赤木と名は同じ中学出身だからな。
 同中のよしみで、結構試合の応援に来てくれているんだよ。
 それで三井のことも知ってるんだと思うぞ?

 そういえば…翔陽戦に来たときの名は随分テンションが高かったな…。
 あの試合からお前のことを覚えたみたいだったしな、名」


「ほ……ほー、う」




なんだ。なんだよ。

なァにニヤニヤしながらこっち見てるんだよ木暮このヤロー。



なるほどな。同じ中学出身だったのか。それだと名前呼びなのも頷ける。ああ。
無意識のうちに胸をなでおろしている自分に気づいて、脳内の血液が沸騰しそうになる錯覚を覚えた。
なんだよ。まるでアイツと木暮がそういう関係じゃなかったことに安心してるみたいじゃねぇか。


いや、実際そうなんだろうけどよ…。
どうにもこの奥底から湧き上がる感情を俺はうまく処理できていないらしい。

ガシガシと頭に手をいれ、木暮から視線を外す。

あー…なんだよ、俺。
完全に意識してるのが隠せてねえだろ…。



「まぁ…友人として言っておくと。
 名は中々にいいやつだぞ。偏見とかないからな」



変に察しのいいバスケ部副部長はこのスーパースターである俺の肩にぽんと手を乗せ、俺はちゃんとわかっているからなと言わんばかりの生暖かい視線を送ってきやがった。



クソッ!
やっぱり木暮に聞くんじゃなかった!











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どハマリしているジャンルの夢、一作目って毎回毎回凄く時間がかかってしまうジンクス。
きっと動かしなれてなかったり、萌えの力が大きすぎてうまく処理できていないんだろうなぁと自己完結させることにします。

なんだかんだで三井さんのことをよく理解しているといいな木暮くん。

14.9.21



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