短編集 | ナノ


君をたとえる3題 02


「なにこれ、甘スギ。限度があるデショ」



「えぇぇぇ…」



毒づきながら蛍くんはフォークを置き、口直しと言わんばかりに紅茶を飲み干す。
まったく砂糖を入れていないストレートの紅茶で中和しようという魂胆みたい。

…これはわたしが察したわけじゃなくて、ご丁寧に蛍くんが説明してくれたから理解できたことです、はい…。



「スポンジはうまく焼けてると思うんだけど。クリームがダメ。
 大体なんでこんなくどくどした甘さになるの?何をしたらこうなるのさ?

 意味なく砂糖でもいれたの?ガムシロップを瓶でつっこんだりしたワケ?」


「う、ぐぬぬ…」


「…ひょっとして図星?」



いたずらっ子みたいに目を細めながら、蛍くんは言い放つ。


彼の好物がショートケーキということで、うちに遊びに来た時を狙って手作りを振舞ってみたのだけれど…
どうやらかなり好みにはうるさかったようで、あれがダメ、これがダメと幾度となくダメだしを食らう羽目になってしまった。

でも、元々料理やお菓子作りをするわけでもないわたしが「スポンジはうまい」と言われるようになったのだから、かなりの進歩だとは思う。

そんなこと、蛍くんは直接言ってくれないけど。


「そもそもなんでこんな無駄なことするワケ?

 クリームは単体でも十分な甘さを持ってるし、普通のケーキだって腐るほど食べてるでしょ」

「それは、そうなんだけどー…」

「そうなんだけど?」


言いよどむうちに目線もどんどんしたに下がってきていたらしい。
そんなわたしの顔を両手で多い、ぐいと上を向かせる蛍くん。
…わたしの心境なんてお見通しと言わんばかりのにやにやとした笑顔で、見つめる。


「どうせ、普通の味じゃなくてもっといいものを、とか考えてたんでしょ?」


「―ッ!!」


「やっぱり当たってた。単純すぎるよ。


大体、こういうケーキはそこまで甘くなくていいんだよ。」


だって、と言いながら蛍くんはわたしの顔を固定したまま距離を縮める。

そしてそのまま自然な流れで、奪われる唇。



「キミとするキスがこんなに甘いんだから、ケーキくらい控えめでいいんだよ」


こつんとおでこをぶつけながら、蛍くんは不敵に微笑んだ。








3

ぜんぶぜんぶ、君のこと

2.砂糖菓子よりふわふわ甘い/月島蛍


お題配布サイト:Fortune Fate




--------------

ンンンンンン!!ヅッキィィィィィ!!!!

2015.6.26


[ Novel Top // Index ]