短編集 | ナノ


褒美

料理を学びたいと思っていた。

血盟軍の屋敷に住みはじめたころから、彼女は強くそう思っていた。


自分の大切な人のために美味しい料理をつくりたい!


女の子ならば誰しも憧れることだ。


そして彼女は血盟軍メンバーから料理のノウハウを教わろうと決めた。
彼の指導は厳しく、それでいて楽しかった。
長い指導期間と、多くの課題をクリアし、今日、やっと最終試験に合格したのであった。



「この3ヶ月、よく頑張ったでござるな」


料理の師匠でもあるザ・ニンジャは、教え子の名に微笑みかけた。彼自身、まさか3ヶ月で全ての過程をマスターするとは考えもしなかったのだ。
名は優秀だった。一つ指示を出せば完璧に覚え、更に自分の中でも熟成させる。

次回までの課題を与えれば要求以上のものをもってきた。

名の努力は半端なかったのだ。


それを知っていたニンジャは、最終試験もクリアした彼女に何かしてあげたいと、心から思った。それほど彼女の努力は並大抵のものではなかったのだ。



「名、合格祝いをあげたいのだが…なにがいいでござるか?」


気づけばニンジャはそう言っていた。どうということではない。ただ彼が心からそうしたいと思ったゆえの行動だった。
なにがいい、と聞かれて直ぐ答えられるような人間ではない名は困ったように顔を伏せる。

しかし褒められたことや、彼女にとって『大切な人』でもあるニンジャが祝ってくれていることが嬉しいのか。
名は仄かに頬を染め、淡く微笑んでいた。


そう。彼女が料理を学びたいと思ったのも、ニンジャに食べてもらい、ニンジャの負担を少しでも軽減させたいがためであった。
少しでも超人血盟軍のために働きたいと思ったことが全ての始まりだった。
自分に料理を教えてくれていた人のために自分も料理を作る、ということは些か奇妙だなと彼女自身感じてはいたが、そうも言っていられなかったのだ。




閑話休題。

うつむいたままの彼女を眺め、ニンジャは「些か変なことを言ってしまっただろうか」と、不安を覚える。
まさか彼女に嫌がられているのではないだろうか。そんなことを考えただけで心が痛む。彼は思った。
名にマイナスの感情を抱かれてしまったらどうしよう。

彼もまた、一途に頑張る名に惹かれていたのである。




「あの、ニンジャさん…いっこだけ、お願い聞いてもらえますか?」



消えるようなか細い声。
静寂を破ったのは名のほうだった。
なんでござるか、と穏やかな笑みを浮かべたニンジャは聞き返す。
それでもまだおずおずとした状態の名は中々続きを口にしない。

彼女が自分から口にするのを待っていると、暫くしてからゆっくりと話は陣多。



「ニンジャさん…、えっと…少しだけ、外してもらえますか?その、頭巾…」


「そんなことでござるか?」


「す…すいません…」


「謝らなくていいでござるよ!」



意外。
彼女があれだけためらっていたのだ。何かモノなのだろうかと思っていた自分を、ニンジャは恥じた。
名はこんなこと(きっと彼女はそう言うと怒るだろうが)でこんなに悩んでいたのか。
つい口から出てしまった言葉に、彼女は反射的に謝った。


「変なこと言ってすいませんっ、流してくれて結構で、す…」


これ以上彼女に喋らせていては名が悲観的なほうへひたすら持っていくだろう。
そう本能的に判断したニンジャは、彼女が言い終わるよりも早く、するりと藍色の頭巾を外した。

する、するり…

ぱさりと頭巾が床に落ちる。


「…人前で、こうするのは久しぶりでござる…」


ぶんぶんと軽く頭を振り、押さえ込んでいた髪の毛を慣らす。



「髪、短いんですね」


「どうなっていると思っていたでござるか?」


「えっと…長いかなーって思っていたんですけど…真逆でしたね、すごく短いです」


先ほどよりももっと顔を赤らめて、彼女は言う。
恥ずかしさのあまりまともにニンジャの顔が見れないのか、ちらちらと盗み見るようにしている様は酷くいじらしく、可愛らしくニンジャの目に映った。


「我儘、聞いてくれて有難うございます、ニンジャさん」


恥ずかしさの残る笑顔を名は向け、頭を下げる。
大したことはしていないでござるよ、とニンジャ。


「あの、ニンジャさん、ごめんなさい…もういっこだけ聞いてくれますか?」


恥ずかしそうに、それでいて何かを決意したような瞳で、名はそういった。

ニンジャ自身、まさかこれだけでお祝いにするつもりはなかったため、彼女の申し出を断ることなく微笑みで返答する。


「ニンジャさん」



にこりと微笑んで、彼女は唇を開く。


前々からの我儘を聞いてもらって。

そして試験もクリアできて。

褒められて。


今なら勇気がでてくる。
今なら、彼に思いを伝えることが出来る。



そして彼女は自分にできるとびきりの笑顔を向けた。




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300番キリリクの作品です!
キリバンを踏まれた桃花さま、リクエスト有難うございました♪

リクエスト内容が頭巾外したニンジャ(短髪設定)で、そんな彼にドキドキ♪だったのですが…
ご期待に応えることができたでしょうか…あわわわわ…。お気に召しませんでしたら申し訳ないです!!

桃花さまのみお持ち帰りオッケですっ!!


08.12.21


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