「デゼルは復讐が終わったらどうするの?」
「…知らん」
買い出しの帰りにふと問いかけてみれば、隣を歩く黒衣の天族は非常にそっけない態度でそう答える。
「自分のことなのに?」
「興味がない」
「じゃあ、何だったら興味あるの?」
「さあな」
彼の淡々とした返事はからは、会話を続ける気がまったく感じられない。
でも私は、そんな彼のことが少し気になっている。好意を持っているのかと言われれば否定は出来ない。だがそうではなくて、彼の目的について気になることがある。復讐が終わったら、なんとなく、デゼルが消えてしまいそうな気がする。勝手に悲観して失礼な奴だなと、自分でも思っている。だが、どうにも深く語らない彼を見ているともやもやしてならない。
「…おい、聞いているのか」
「えっ!?ごめん…何?」
考え事をしていたせいで、想い人からの呼びかけに気付かなかったなんて不覚。しかも貴方について物凄く不謹慎なことを考えていました、ごめんなさい。
「チッ…ナマエこそ、この旅が終わったら何かあるのか」
「わ、私…?」
デゼルの方から私のことを訊いてくるとは思わず、素っ頓狂な声を上げてしまった。私のことを少しでも気に掛けてくれるんだ…。嬉しいが少し気恥ずかしくもあり、俯いてしまう。
「うーん、いきなり言われても思いつかないかも…」
「だろう。俺もお前と同じだ」
「…でも、なんていうか…好きな人とずっと一緒にいたい、かなあ…」
「…ほう?」
しまった。完全に思っていることが口に出た。ハッとしてデゼルを見上げると、口元が弧を描いて不敵に笑っているようにも見えた。
「案外女らしいことを言うんだな」
「わ、笑わないで!あと…出来れば今のは忘れて欲しい…」
うう、恥ずかしい…顔に熱が集まるのを一瞬で自覚する。いつもならこのような失態はエドナやロゼが拾って笑い種にしてくれるというのに、今はこの寡黙な男と二人きり。気まずくて仕方ない。
「なぜ忘れる必要がある?」
「聞かないでよ…恥ずかしいからに決まってるでしょ」
「…さっき、俺もお前と同じだと言っただろう」
がっくり項垂れる私の揚げ足をとるかのように、彼は追及してくる。いつもこうして私のことを子ども扱いしてくるのだ。こちらがどんな気持ちでいるかなど知らずに。…いや、今何と言われた?
「……私と同じ……?」
「フン、目的を果たした後の話だ」
「それって…?」
「…俺の復讐が終わって、スレイの旅も終わって、…その時も同じ気持ちだったら意味を教えてやる」
そう言ってデゼルは私の髪をくしゃくしゃと撫でる。言葉の意味を考えると、自分の鼓動が速さを増していくのを感じる。
「それ、いい意味で捉えてもいいの…?」
「…好きにしろ」
「私、人間だからデゼルより早く死んじゃうよ?」
「待て。気が早い」
撫でていた手でそのまま私の頭を小突くデゼル。気が早い…ということは、旅が終わったら、一緒にいてくれるというのだろうか。いつもの彼なら違ったら違うと容赦なく指摘してくるはずだ。
「…そのためには、早く世界を平和にしないとだね!」
「ああ…」
※Dissonance…不協和音
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