Tales of | ナノ




※デゼルがかなりキャラ崩壊してます




私は、この瞬間まで知らなかった。

「おいぃナマエ…聞いてるのかぁ!?」

この男――デゼルが、酒に酔うと物凄く面倒だと言う事を……。



事の始まりは数時間前。
街でちょっとした事件を解決してきたのだが、「どうかお力添えをしてくださった天族様達とお飲みになってください」と、導師であるスレイに酒が献上されたのである。
しかし旅の仲間で酒が飲めるのは私とデゼルだけであり、「飲むなら別の部屋で頼むわ。酒臭いのは御免よ」と言い放ったエドナに部屋を追いやられ、皆とは別の部屋で遠慮なく晩酌をしていたのだった。

が。

「だから聞いてるってば…」
「さっきの戦闘で俺はお前の足を引っ張らなかったか?」
「うんうん、大丈夫だったから気にしないで?」
「強がるんじゃねえ!俺の術にぶつかりそうになってただろうが!」

飲む量が増えるにつれ、あの寡黙なデゼルがどんどん饒舌になるではないか。しかも怒鳴る声はデカイ。
そういえば、二人でお酒を飲んだことってなかったなあ。まさか貴方が下戸だったとはね…。
予想外の展開に苦笑を禁じ得ない私。

「俺はこうして、大切な仲間達を傷つけてばかりで…チキショウ!」
「ねえデゼル、私は無傷だから落ち着いて…」
「落ち着けるか!お前が気付いて避けなかったら、危うく大怪我だったんだぞ!」

ダン!と音を立てて、拳をテーブルに叩きつけるデゼル。
…正直、いくら大好きなデゼルといえども相手をするのが物凄く面倒くさい。
こういう人って散々騒ぎ立てた後、突然静かになったりするし、その時が来るのを待とう。
私はそんなことを考えながら適当にデゼルの話を流しつつお酒を嗜んでいた。お店でもなかなか飲めない貴重なお酒だ。ありがたく頂かないと。

「でもデゼルが攻撃してなかったら、私は憑魔の攻撃を受けてたと思うし、むしろ助かったよ?」
「……まあ、そうかもしれねえが……」
「ね?だから結果オーライなの。せっかくのお酒なんだし、もっと楽しい話をしようよ」

頬杖をついて、デゼルの顔を覗き込む。
表情は相変わらず分からないが、頬が火照ったように赤くなっている。あまり喜怒哀楽を表に出さない彼の意外な一面を知れた気がして、なんだか微笑ましい。
エドナも、ちゃっかり私とデゼルを二人きりにしてくれたのかなと思うと、自然に頬が緩む。

「……ナマエ」
「な、」

何、と返事をしようと開いた口が、塞がれる。
思考が停止しそうになる頭をフル回転させて状況を理解するが、どうやら相手はデゼルだ。
勿論キスなんて初めてではないが、こうも突然されたことはなかったので少々戸惑った。
アルコールの香りを纏った口付けは、なんとも妖艶な雰囲気を作り上げる。

「いまの、可愛い顔だった」
「へ、」

彼の顔の角度が変わり、互いの唇が離れた瞬間、デゼルがそんなことを言う。
何のことかわからないままだったが、その直後にも彼は私の後頭部を手で押さえ、舌を捻じ込みながら貪るようにキスを続ける。
くらくらと酔いが回ってくる感覚に溺れそうになっていると、デゼルは小さく吐息を漏らしながら名残惜しそうに顔を離した。

「あんま可愛い顔、すんじゃねえ」
「か、かわ…!?」
「我慢、出来なく…な…」

ばたり。
音を立ててソファに沈むデゼル。
ムードを作って私を押し倒した、なんてものではない。勝手に倒れたのだ。
まるで燃料が切れたかのように。そうだ、今の彼は只の面倒な酔っ払いだった…。
しかし、いつものデゼルは滅多に私のことを「可愛い」なんて形容しなければ、唐突にキスをせがむ様な事もしない。
酒が回っていたせいもあるが、本心では彼もこういうことを思っていたのだろうかと思うと、やっぱり愛おしい。

「…出来れば酔ってない時に、また言って欲しい、かも…」

もはや目覚める気配のない彼の頭を撫で、私はグラスに残ったお酒を飲み干すのだった。
彼の寝顔を独り占めしながら、もう少し晩酌の余韻に浸ろう。














return