「ナマエ、何をしている?」
「あ、デゼル…」
宿の一室。私は皆より早めに食事を切り上げて、部屋に戻ってちょっとした作業をしていた。
が、人間の私がコソコソと隠れていても、天族の、というか恋人のデゼルにはお見通しで。
様子がおかしいと思ったのか、彼も彼で早めに切り上げて来たらしい。
なんでこんな時まで気を遣うかなあ…嬉しいんだけど、ちょっぴり複雑。
まあ、そんな世話焼きなところが大好きだから、嫌な気はしないけども。
「うー…教えるから、ちょっとだけ待ってもらえる…?」
「…どのくらいだ」
「…あと10分!」
「そうか。だったら、頃合いを見て教えてくれ」
そう言ってデゼルはソファに寝転び、顔を帽子で隠す。
これは、彼が転寝をする時のお決まりの格好だ。長い脚はクロスしていて、寝てるだけなのに画になるなあ…。
…って、見惚れている場合じゃなかった。続きを終わらせなければ、デゼルを待たせてしまう。私は慌てて残りの作業に取り掛かるのだった。
「デゼル、お待たせ」
「……ん」
声を掛けると、短時間とは言え寝起きのためか掠れた声で返事をするデゼル。
こういう無防備な姿は私以外に見せてないのかなと思うと、少しばかり心が跳ねる。
デゼルがむくりと起き上がり、帽子を被り直したのをしっかり確認して、デゼルの手を握る。
「あのね、デゼルにプレゼントを作ってたの」
「…俺に?」
「うん、受け取って欲しいな」
デゼルの手のひらに、つい先程まで丹精込めて作っていた物を載せる。
渡したのは、茶色の革で出来た紐に、星空を凝縮したような輝く青色の石を通して編み込んだブレスレット。
「ブレスレットなんだけど、普段、グローブの下にでも着けといてくれたら嬉しいなって…」
「ほう、どうして急に」
「デゼルって、いつも石とか装飾のついたペンデュラムで戦ってるけど、せっかく綺麗なのに武器だけにしとくのは勿体ないなあって思って…」
こういうことを言っていると、なんだか告白やプロポーズのようでもどかしくなって来る。
デゼルはかなり珍しそうに、ブレスレットをまじまじと見つめている。
「へえ、驚いた。お前、こういうのも作れるんだな」
「あ、あんまり上手には出来ないんだけど…いつもおやつ作って貰ってるし、優しくしてくれるお礼」
「ふっ…サンキュ」
デゼルが私のおでこに軽くキスを落としてくる。
私は彼のこういった愛情表現が、堪らなく好きだ。
「んっと…この石、ラピスラズリって言うんだけど、単なる厄除けとかだけじゃなく、幸せの象徴って言われたりもするんだ」
「ほう…」
「もっとデゼルには自分を大事にしてほしいなって思って…。あっ、別に、やり方とか生き方とか、そういうのを否定するつもりはないんだけどね、その…」
「わかってる」
どうしても良い雰囲気になると、緊張してうまく話せなくなる癖が抜けない。
そんな私を包み込むように、デゼルが抱き締めてくれる。
彼の心の中に復讐の炎が燃え盛っているのは知っているが、それとは別の温かさを体全体で感じる。
なんだかんだデゼルは優しいのだ。改めてそう思った。思わず頬が緩んでしまう。
「俺は自分のやるべきことを曲げるつもりはないが、…別に幸せにならんつもりもないからな」
「ふふ、そう言ってくれたら嬉しいな」
「…ナマエ、お前が着けてくれ」
そういって、右手のグローブを剥ぎ取り手首を差し出してくるデゼル。
私は先程渡したブレスレットを受け取り、彼への想いとともにその手首に巻き付けるのだった。
return