使用例ss | ナノ


▼ 古の竜は夢を見た

古の竜は夢を見た。
それは遠き未来(さき)の景色か、懐かしき昔の情景か。
最早分かりはせずとも、その光景は確かに竜を切なくさせた。
竜は泣かないもの、鳴くものだと人は言うけれども、それは少し語弊がある。
竜は泣かないのではなく、泣けないのだ。
竜の涙には不思議な力が宿っていて、それが人の手に渡れば不死にも致死にもなれるという。
だから竜は泣かない。
けれども…けれども。

今日ばかりは竜は独り寂しく湖の外れでひっそり泣いた。
夢は夢、されど夢。
幻なれど胸を打つ、胸を叩く。
竜の涙はその鱗のように虹色に輝いて、湖面に蒼く溶けた。
ひと滴ひと滴、煌めいては落ちて水紋を作っていった。

人よ今は湖に立ち入ることなかれ。
竜の泣き声を今だけは聞き逃したまえ。

湖水のほとり、たった一日涙した古の竜の、見た夢を知るは涙ばかり。
涙の行方を知るは水面(みなも)ばかり。
──今日も虹色の鱗の竜の湖には、素知らぬ空へと虹架かる。


2015.7.2

prev│next

[ back to top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -