▼ 天上にあるという天甘(あまあま)な恋
地上を追われ天に逃れた我が祖等が、信じていたという天甘(あまあま)な恋。
天上にだけ許された最上の甘やかなその恋は、脳をもとろとろ溶かすという。
そんな恋であったなら、我は甘花(あまはな)を一輪そなたの手に摘み取っただろう。
花を贈るが愛の証はいつの世もどこの世も同じ。
我等こそが至上の恋人と知らしめようぞ。
…しかしそんな空想は甘露(あまつゆ)のような一滴の夢。
慕う相手のおらぬ我が身のこの空虚なことよ…!
なれどそれは我を捉えた甘夢(あまゆめ)なれば、あまりにも魅惑的な幻想。
いや、確かに想う者はあったのだ。
小さき頃を共に過ごした小さき友よ。
友は同じ男(お)の子であったが、その姿心のいと愛らしきはいと愛らしく。
今も尚胸に残る幼いままの甘恋(あまごい)よ。
たった一度、甘愛(あまめで)るように口付けたあの時に、友は我の手をすり抜けてしまった…泡沫の如く。泡沫の如く。
それは星を渡る天橋(あまはし)。
友は帰らぬ人となりて、無限に続く海の天岸(あまぎし)をも渡ってしまった。
許されぬ恋であったからか?
相手が我であったからか?
今でも主(ぬし)に問いたい。
されどもう問えぬ。
見えぬ翼で天翔(あまかけ)て、天陰(あまかげ)る夜の帳を抜けて我に逢いに来てはくれぬだろうかと、今でも我は…。
心憂えど、見渡せばここは誰もが恋に狂う天春(あまはる)めいた常桃(とこもも)の世界。
睦まじき二人(だれ)も、
残されし我も、
天咲(あまざ)くら萌ゆる散ゆる。
(光の中それはそれは美しく蘇る恋した人の残像よ)
2015.3.24
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