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Night Shift

満13歳の女性にのみ与えられる登録制ガンの配布。
30年前に国連で可決された法律のこと。

女性への性犯罪対策のため、銃の所持を全世界から完全に廃止し、代わりに国は大胆な草案を提出した。
満13歳になると、女性は国がマイナンバーカードと連動して管理している銃弾と、小型のガンが配布される。
男性から暴力を受けた際には、ガンによる銃撃が許可される。
ただし、急所を外さなければならないため、女性は小学校入学と同時に保健体育の授業内で射撃訓練が義務付けられた。
6年間の射撃訓練を経て、中学校に上がる頃に役所からガンを渡される。


報告


鈴木かな

20XX年 12月某日

「お母さん、私、来年から本当にガンを持たないといけないの?」

「そうよ。かな、6年生なのに背が低いんだから、余計必要でしょう。」

「でも、私学校の射撃訓練ではいつも成績悪いよ。いざというときちゃんと撃てるかも不安だし、来年から女の子みんながガンを持つなんて、信じられない。」

「お母さんはまだ1度しか撃ったことがないけど、ちゃんと指先に命中したんだから大丈夫。19歳の時よ。」


日本では、登録制ガン配布法の発布が遅れた。
このため、未だに女性に対する性犯罪は他国に比べて頻発していた。

被害者、鈴木かなちゃんが誘拐されたのは、この数日後のことだった。

日本はこの法案の可決に最後まで抵抗していた国の一つで、可決後もしばらく国内での施行を渋っていた。
最終的に施行に至ったが、その間も男性側、一部女性からも反対運動が頻繁に行われていた。
施行後も反対派は細々と活動していたが、今回の鈴木かな誘拐事件は世間の意識を大きく変えた。
ガンを持つかどうかではなく、「持っていない人間」すなわち13歳以下の少女を守らなければ、と。

中学生になると同時にガンが配布されるため、この頃から日本はガンを持たない小学生を対象とした犯罪が横行しはじめた。
この事件をきっかけに日本警察は本格的に小学生対象の犯罪取り締まりの強化に乗り出す方針を明らかにした。
にもかかわらず、この先さらに数十年、小学生女児に対する性犯罪は増加した。
警察庁は責任を問われたが、「努力をしている」の一点張りであったという。




ブリー・マックスウェル

20XX年 5月某日

「ブリー、いつまで残業するつもり?オフィスに残っているの、アナタだけよ。」

「もう少しで終わるのよ。先に帰っていいわよ。」

「でももうこんな時間だし…。ガンがあるとはいえ…ほら、日本のスズキカナの事件だってあるじゃない。心配よ。」

「大丈夫よ。あれはまだ13にもなっていない子どもでしょ?アタシなんて誰も拐いやしないわよ。」

「それもそうね、アハハ。そういえば今日は彼氏が迎えに来るんだっけ?なら心配ないわね。それじゃ、また明日。」

「ええ、また明日ね。」


この日の深夜未明、当時ブリー・マックスウェルと交際していた男性が射殺された。
ブリーは容疑を認めており、その上で銃の暴発を主張した。
家族や友人の証言では、ブリーと交際相手は良好な関係を築いていたという。
その日もブリーを迎えにきた男性と、同棲を開始したばかりのフラットに仲睦まじそうに帰宅していく様子を、近所づきあいのあった隣人が目撃している。
ブリー本人の証言では、彼のことは今も愛している、なぜこんなことになったのかわからないという。

彼はいつでもブリーに対して紳士的で、残業が多いブリーに変わって家事もこなす方だった。
しかし、その日はいつもと違った。
いままで一度だってブリーの所持するガンに言及したことのなかった彼が、初めてガンを目の届かないところに置いてくれないかと切り出した。
理由を聞いても口をつぐむ彼に、ブリーは根気強く問い詰めた。
すると、今まで黙って家事をこなしてきたのは、ブリーの所持するガンが恐ろしかったからだと告白したというのだ。
今日までまったく平和に交際を続けてきたと思い込んできたブリーは、彼がそんな思いを日々貯めてきていたとは知らず、驚愕した。
気の毒に思ったブリーはガンを仕事用カバンに仕舞い、それをさらに木製のワードロープに入れた。
二人はいつも通りの空気をつとめて再現し、夕飯にオートミールを食べた。
ブリーの手作りだった。
日付が変わる頃、ブリーは翌日の仕事の支度を始めた。
ワードロープから取り出した仕事用のカバンに必要なものを詰めている間、彼は風呂に入っていた。
こっそりとガンを手に取り、ブリーは考えた。
彼がどれだけガンを手放してほしいと言っても、それは二人きりの時だけになるだろう。
ブリーにとって男性とは彼だけではなく、職場でも、家族といても肌身離さずガンを所持してきた。
今更このガンを手放したら、自分が丸裸で歩いているような気持ちになるだろう。
身を守るためには、ガンが必要なのだった。

物思いに耽るブリーの肩に、風呂上がりの彼の手が置かれた。
驚いて彼の方を振り向けば、彼は怯えた顔をしてブリーを凝視していた。
ガンをこちらへ渡すよう、彼は慎重に諭した。
しかし、ガンを男性に譲渡することは法律で禁止されていた。
少し触るだけでも犯罪になった。
ブリーと彼は口論になり、ついに彼はブリーのガンを奪い取ろうと手を伸ばした。
ブリーが制止する声も虚しく、ガンは二人の間で暴発した。
どちらが引き金を引いたのか、二人の指紋がガンに残っているため不明だったが、いずれにせよその引き金は軽いものだった。
銃弾はブリーの交際相手の男性の心臓を撃ち抜き、命を奪った。


ブリー・マックスウェルのガン暴発事件はすぐに世界中に広まった。
ブリーに無罪判決がくだったからだ。
男性は日常生活、むしろ女性に協力的な生活を営んでいるだけでも、死に至る可能生があるということかという声が次第に大きくなった。
この頃から、世界の男性による、ガンの強奪事件が多発した。
そういう組織が結成されたというわけではなかったが、自然とどの国でも似通った事件が起こった。
夜道に銃を強奪され、そのまま射殺された女性もいた。
それからしばらく、女性の射殺事件が相次いだ。




クレオ・フォーゲル

21XX年 11月某日

「おい、この報告書を作成したのは誰だ?スズキカナ誘拐事件にブリー・マックスウェルのガン暴発事件…。100年も昔の資料じゃないか。入れるのはいいが、最近のものも入れてくれないと困る。」

「すみません、クレオ博士。今回のガン内臓手術の案を可決させるためには、この資料はどちらも不可欠かと…。」

「そういう話をしているんじゃない。私は最近の、つまりガンが指紋認証制になり、暴発や不正使用を防いだ代表的な事件や、アンドウヨリコ元首相の演説、サミー・オレンジのガン不当所持反対運動…。入れるべきものはまだまだあるだろうと言っているんだ。これでは可決できるものもできなくなるぞ。」

「すみません、クレオ博士…。すぐに直します。」

「ああ、これだけの実例を挙げれば、きっと大丈夫だ。通るさ。技術も申し分ないんだから。」


クレオ・フォーゲルがガン内臓手術の草案を示したのは、7年前のことだった。
ブリー・マックスウェルのガン暴発事件がはじまりといわれている、男性によるガン強奪の事件は数十年経った現在でも、未だに続いていた。
当時ガン所持に関する研究をしていた学者のクレオは、この頻発するガン強奪の事件をどうにかする必要があると思っていた。
そのためには、奪いようのないところにガンを隠すべきだと判断した。
様々な方法を提案した結果、もっとも安全なのは体内に内臓することだと結論づけた。
女児の出産と同時に緊急手術を施し、両腕に小型のガンを移植する。
細胞と結びつき、成長に合わせて大きくなるガンは、体内にあるため奪われる心配もない。
130年ほど昔に可決された法案の、満13歳からのガンの配布、という部分を破ることになるが、これなら女児を狙った犯罪も減るだろう。

この7年間、何度も棄却されてきた理由は、主に技術力を盾にしたものや、道徳的な観点からだった。
しかしこの7年間で、徐々に賛成派も集まってきた上、ガンの内臓手術の成功率もほぼ確実に成功する域に達した。
今ごねている派閥は、ハト派の臆病者達だけだろう。
じきに折れて、この法案は現実のものとなる。
そうなれば、ついに女性が男性から理不尽な暴力を受けることはなくなる。
平和な世の中に近づくのだ。
必ず成功させなければならない。
この世界こそが、平和な世界なんだ。


現在、クレオ・フォーゲル容疑者は逃亡中。
当局は捜索を続けている。


報告終了


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