同じ羽の鳥の望み



僕と、隊長は、似ている

『あなたと隊長?まるで反対に見えるけれど』真面目な少女は言った
『たいちょおとあんたぁ?…寝言は寝ていいなさいよ』強気な少女は言った
『それは…とても、お前の願望に近いな』賢い少年は言った
『私も、似ていると思うな』洞察力のある少女は言った

どれも間違いではなかったし、そしてどれも正しくもなかった
そしてどれにも意味はなかった

「ねぇ、隊長」
「口より手を動かしてくれ」
「僕って、面倒な生徒でしょう〜」

僕がそう言えば、隊長は僅かばかり眉を顰めて見せた
あなたは賢いし、鋭い
僕がただ意味もなくこんな事を言っている訳では無いと知っている
だからこんな他の誰が聞いても自然で当たり前な会話の返答に困っている
いいなぁ、もっとずっとこのまま僕の事考える時間が続けばいいのに

「…面倒、に間違いは無いな」

隊長の答えは、言い得て妙だった
そうだ、あなたにとって僕はひどく面倒である
だって、授業中に居眠りをするし、早弁をしだしたりする、
出された課題だってまともにやってきた事の方が少ない
報告書だっていつも再提出だし、試験だっていつもいつも赤点
おかげで今の状況同様、補講は俺の為に開かれてるいるようなものになっているし
(シンクは補講ギリギリをうまく取るし、ナインは来ないが、再試験はいつもクイーンやトレイに助けられてクリアするのだ)

何より僕は隊長を好きだと言う
自分で考えてみても恐ろしいくらい面倒な生徒だと思った

「でも、僕がいいこだったら、隊長は僕を面倒だとも思ってくれないでしょ〜」
「……そんなことはない、といったらお前は満足するのか」
「そうだよねぇ、隊長を好き、てだけで相当、面倒だ」

僕が自嘲気味に笑って、隊長を目を諫めて見つめる
あなたはまた困ったように眉を顰めた
人間、目は口ほどにものをいう、なんていうけど隊長みたいにマスクしていると随分表情とはわかりにくいものだ
いや、これは隊長が特別無表情な部類に入るという事もあるけれど

「ごめんね、隊長だからって、生徒だからって、はっきり言いにくいの解って僕はずるいことしてる」
「ジャック、」
「ごめんなさい、ずるくて、ごめんなさい、面倒で」

「ごめんね、好きになって」

隊長はまた、眉を顰めた
でもそれは、困っているのではなく、ありありと怒っているとわかる
目を細めて、少し辛そうに

「笑うな」
「…ッ、僕、が笑ってなかったら隊長は断りにくいでしょ〜」
「だから、笑うなって言っているんだ
自分が苦しい時にまでどうして笑う」
「笑う、ことが、僕にとっての仮面だから」

あなたのソレ、と同じだよ
隊長の顔下半分を覆う黒いマスクに手を伸ばして触れた
過去の傷を隠しているそのマスク、でもそれだけでもないはず

だから、僕と、あなたは似てるよ
あなたが本当は優しいところも意外と熱い所も、表情に出さないように
僕は自分が辛い時も、悲しい時も、表情に出さないように

似ているから、自分を見ているようで、弱さを見せられるようで一緒にいたくない
似ているから、自分を解ってもらえるような気がして、一緒にいたい

本当に、似ていて
本当に、似ていない
表裏一体
アンビバレンス

僕がそのマスクの下を覗きたい、という欲望のままに手をかけようとすると
隊長はまた、最初みたいに困ったように眉を顰めて、持っていた教科書で軽く僕を叩いた

「補講、終わらせるぞ」
「……わかったよ〜」

突然、現実に戻ったかのように、教室には僕がノートにペンを走らす音だけが響き始めた
隊長も何も言わなかった、僕も、何も言えなかった
二人の間に横たわる沈黙はなんだか今にも叫び出しそうな空気を孕んでいたというのに
その空気に酔わされたと、言ってしまおう
そう言い訳をして僕は再び隊長へ手を伸ばす
そのまま体をあなたに寄せて、マスク越しにあなたの唇にキスする
感触も、体温も、ムードもクソもあったもんじゃないなぁ

「ねぇ、隊長
まだ、暫くは面倒な生徒でいてもいいかな〜?」

(いつか、僕が本当にキスしてしまうまで
若しくは、あなたが僕を拒んでくれるその時まで)