優とミカの為なら何だって出来る。優とミカの為なら裏切る事だって殺すことだって厭わない。私にとってあの二人は最高の存在であり、唯一の存在である。二人が望めば何だって出来る。私は二人のために生きているようなものだから、生きるも死ぬのも二人に任せる。そんな存在なのだから。

依存している。狂ってる。そう言われてもおかしくないくらいに私は優に依存していた。ミカエラに会ってからミカに対しても依存した。あの二人がいなくちゃダメなくらいに。
好きと言う言葉は安っぽい。愛してると言う言葉はどうだろうか。好きで好きでどうにかなりそうなくらいなのに、言葉で表すとどうも安っぽく感じてしまうのだ。

「姉ちゃん、姉ちゃん……」
「ん、なあに」
「好き、愛してる、好きだ」

優は腰に抱き着いた。暗い私の部屋の中で優はこんな風に私に言葉を並べている。嘘ではないことも分かってる。本心からの言葉であることもわかってる。私も大好きだよ、愛してる、と彼を抱きしめる。優は昔から私の胸に顔を埋めるのが好きだった。何故かは知らなくても優のためなら何だって出来る。

恥ずかしいとも嫌とも感じたことはない。拒むことさえすることもない。私は優やミカ、茜や亜子、孤児院の皆の言葉を拒んだことはなかった。

姉ちゃん、とか弱い声で私を呼んで優は私の首をゆっくりと舐めた。ぞくぞくと背筋を何かが走る。ベッドのスプリングが軋み、二人して倒れ込んだ。翡翠の瞳は私を見下ろしていた。優は私に何かをするときに必ず謝っていた。ごめん、ごめんと。まるで自分がすることを早いうちに咎めるように。

「姉ちゃん、俺、ごめん」
「いいのよ、優。したい事をして」
「でも、姉ちゃんが」
「私は貴方を拒まない。だから、大丈夫よ」

穏やかに笑った。だって本当の事だから。まさか、愛した人を拒むわけがない。優はごくりと息を呑んでから静かに首にもう一度顔を埋めた。ちく、と痛んだ首元。俗に言うキスマークというものか。所有権を記すもの。

優になら構わない。

そう思いながら私は静かに優を抱きしめた。その中でごめんなさい、ごめんなさいと何度も涙を流しながら謝る優を私は静かに撫でることしかしなかった。



「姉ちゃんごめん。俺、昨日の夜……」

真っ赤な顔をしてぼそぼそと呟く優。気にしなくていいからね、と頭を撫でた。私よりも少しだけ高くなった身長。いつの間にかこんなに大きくなっちゃって。少し寂しい気もあるけれどやはり、成長するものなのね。

分かってたからこそ辛かった。いつまでも私の中にいる、百夜孤児院のころの優ではないのだ。いつか、私からも離れていってしまうのかな。

それだけは嫌だな。もしも、優が私をいらないと言ったらそこで私の存在意義が無くなる。それは構わないけれど優の成長を見れなくなるのは悲しくて悲しくて。

「優、姉さんね、優のこと大好きよ」
「俺も、大好きだ。愛してる。言葉で表せないくらいに」

さあ、行こうか。優の腕を引いた。前までちっちゃくてぷにぷにしていた掌はいつの間にか男らしくごつごつとしていた。大きくなっちゃうのね。

私は身長も伸びないで貴方達の成長を見届けるだけだというのに。私は置いてけぼりになっちゃうのかしらね。それだけはいやよ。だけ、なんて言葉のあやだわ。

ねえ、愛してるから私も一緒にいるからね。ミカのことをちゃんと見つけて三人の王国を作るんでしょう?私の夫になるって宣言してたのは優でしょう?だから、叶えてみせてね。