ぎいと思い扉が開かれた。待ち構えていたかのように並ぶ鬼。まだ16の私には恐ろしい場所でしかなかった。グレンの服の裾を掴んでぴたりと張り付いていた。ここから選べ、適当にそんなことを言われた。グレンの黒鬼で攻撃されて全く同時無かった私をグレンは簡単に認めた。そして、黒鬼を手に出来るようにしてくれた。まだ一週間も立っていないというのに。

グレンから離れて私は鬼を眺めた。あれ、と並んでいる鬼の後ろに光る何か。グレンは私の方を見ていなかった。けれど、私はグレンに言った。私これがいい。グレンのダメだという叫び声は少しだけ聞こえたけれどもう、遅かった。

ふと聞こえてきた声。

「ん?お前あれか、新しいやつか。やめとけ、今なら逃がしてやる。鬼になりたくないだろ」
「一番強いのは君だと思うから私は逃げない。君の力を手に入れる」
「馬鹿言うな。俺に手を出した奴は全員鬼になったんだ!!」
「だからなんだ。私は例外かもしれないぞ。力を貸してもらおうか、えっと、名前…」
「名前はない」

そっぽを向いた姿が優にそっくりでぷ、と吹いてしまった。何笑ってんだよ、と頬を膨らましたのがまさしくそっくりだ。力を貸してもらおうか、と言ったら彼は直ぐに姿を変えた。俺を倒してみろ、と。望むところじゃないか。彼は、悲しいことにミカの姿になったのだ。いや、それだけじゃなくて、優の姿にも茜の姿にもなったのだ。止めて、とあのころ見たく弱弱しくなっていいのか。そんなわけない!

視界が一転。白い世界に変わった。そして、見覚えのある金髪。それがミカエラであると私にはすぐにわかった。彼に近付いた。きっと幻覚なのだろうと頭の中では理解していたけれどそれでも、私は向かったのだ。

「姉、会いたかったよ」

優しく笑ったミカエラ。顔も声も同じだ。だから、泣きたくなった。これがミカエラではないと認めたくないと何処かでおもってるのだから。でも、私は弱かったのだ。

「ミカ、茜、みんな生きてたんだね」
「……姉、何馬鹿なこと言ってるの?僕たちは死んだんだよ」

簡単にそんなことを言われる。絶望の淵に落とされたような。やめて、そんなこと言わないで。違うでしょ。違う、違くない。どっちなの。違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違くない?どっちなの。なんなの。もうやめてよ。

「姉は逃げたんだよね。優ちゃんは復讐する気でいっぱいなのに、姉は違うんだ?」
「ちがっ、違うの、ミカ!」
「違わないでしょ姉。嘘言わないで。僕の為に復讐して。僕たちの為に復讐してくれるんだよね?」
「違う!!!ミカはそんなこと望んでない!!私にはわかるから、私の大事なミカをそんな風にしないでよ!!!」

叫んだ。だって、認めたのに違うのに。もう、何がなんだか分からなくなってきた。けれど、ミカは私に復讐なんて望まないから、絶対に。優しくて頑張れるミカエラがそんなこという筈ないのだから。
パキンと砕けるような音とともに私の世界は元に戻った。さっき聞こえた声と同じ声で彼はつぶやいた。すごいね、打ち破ったよ。笑っていた。けれど、それだけで終わりな筈がない。

なにかが飛んできた。反射的にそれをよけても私に当たる。頬を掠めて赤い液体が床に落ちた。ぴりっとした痛みが私の中を埋め尽くし、段々と本格的な痛覚へと変貌した。痛いと思いつつも私は彼から目を離すことはなかった。飛んできた矢をくぐり抜けた。ん、いって!腹を抉るように飛んできた球体をよけられずに私は後ろにあとずさった。口から血がごぷりと溢れた。

「ごふっ、っあ」
「あーあー、やめようっていったのにさあ」
「げほっ!げっ、ごほっ 」
「ねえ、もう無理でしょ?諦めてよ」

やだね。私は彼を見つめていた。まだ、やれるはず。彼を捕まえてやる。私はとにかく彼に向けて走った。彼はどこか、バカにしながら私の最後の足掻きだと何もしなかった。
私はそのまま彼に抱きついた。本当に驚いていた。離せ、と弱々しい声が聞こえてきた。うん、平気よごめんね。私よりも少しだけ大きいこの体を両手で抱きしめた。

辛かったんだよね。自分を手にしてくれようとした人が居たのに、みんな居なくなってしまっていつしか恐れられてあなたは一人ぼっちにさせられたんだよね。悲しかったよね。見つけてもられなくて、見つけてもらっても自分を変えてくれる人がいなかったんだよね。もう、大丈夫だから。私が貴方を見つけてあげたから。あなたの力を私に頂戴。

「ねえ、僕でいいの」
「いいんだよ」
「はは、すごいね。打ち破ったよ。それにこんな気持ちにさせるなんて。僕だけの、僕という黒鬼のホントの力も使えるようにしてあげる。珍しいなあ、打ち破る人は少なくないけどね、僕が認めなかったから力に気圧されて負けたんだよ。そして鬼になった。けど、きみは違うね。僕に名前を付けて。君の力になってあげる 」

彼は穏やかに笑った。 貴方の名前?大和、大和優美なんてどうかな。怯える調子で彼に尋ねると彼はなんでと理由を求めてきた。理由なんて特にないのに。強いて言うなれば弟二人の名前を入れたかった、から。『優』一郎と『ミ』カエラ。ミは美しいに変えただけ。力をかそう。大和は目を見開いた。私と同じ血のような赤色。

彼は、大和は唱えるように何かを呟いてから私を抱きしめてくれた。認めてくれてありがとう、と優しくつぶやいて。ふわりと、消えた大和。目の前には心配した顔をしているグレンがいた。平気だよ、と、にへらと笑えば彼は強い力で抱きしめてくれた。心配症だなあ、と私はグレンの背中に腕を回した。