お前を護りたい、そう言えればどれだけ良かったか。というか、あいつは護られなくても充分に強い。俺たちがいる理由すらも分からなくなるほどに。

前は真昼だった。あいつもパーフェクトに近くていつも俺の前を歩いていた。俺を愛してるといいながらも俺の前に行って俺を見てくる。それが悔しくて悔しくていつしかあいつをただのライバルとしてしか見れなくなった。
じゃあ翔子は?あいつは真昼以上の力を持っててパーフェクトで、そっちの方が護りにくい。護らなくていいくらいなのに。けれどあいつは、弱かった。優に弱かった。優のことになればすぐに無防備になって後ろを突かれるだろう。そんなことわかる筈なのにあいつの目には優しか映ってないから怪我をする。それに真昼と違ってあいつは、まあ、俺の部下だからなのか後ろをついてきて、たまに横に並ぶ。俺を支えてくれる。だから、最近あいつが大切になり過ぎでとうとう恋愛感情さえも抱いてしまったのだから。

「グレン、動くな馬鹿め」
「はぁ、お前はいいよな。強くて」

咄嗟に出てしまった言葉を聞き流すことはしないだろう。ぴくりと眉を動かして俺の軽い傷の手当てをしていた手が止まった。やべ、と思った。また傷が増えるのか。

そう思ったが翔子の笑い声で不安さえも吹き飛んだ。大きな笑い声ではないものの呆れるような、なんといえばいいか、まあ、笑ってた。拍子抜けして、目が点になる勢いだ。

「いや、っふ、はは!まさか、グレンがっ、ふふっ、そんなこというなんてなっ。はははっ!」
「なんだよ」
「乙女は強くありたいわけじゃない」

お前のどこが乙女だ、それを言ったら今度は殴られた。これがタブーだったか。そのまま、俺の傷の手当てをしてくれていた。その間、会話などすることはなかった。


「なあ、翔子」
「ん?」
「乙女は強くありたいわけじゃないって、どういうことだ」

次は翔子が目を丸くした。まさかそんな こ と聞いてくるなんてな、と小馬鹿にするような。お前のことならなんでも知りたい。いや、優に過保護なのはそろそろ止めてくれないか。あいつに目をつけられてるみたいだ。目の敵のようにしてくるものだから翔子と一緒に居れないじゃないか。

「きっと、私にも真昼にも言えることなんだな」
「は?」
「乙女はな、恋をするんだよ。王子様に憧れるんだよ」
「だからなんだ。」

わからない男だなあ、と呟いた。分かるわけ無いだろう。茶色い椅子に座ったままスプリングに身を委ねながら言葉の意味を考える。翔子は近くにある一人がけのソファに腰をかけていた。

「護られたいのに、出来ないなんてな」
「護られたい?」
「恋する乙女はプリンセスなんだよ。かっこいい王子様に護られたいし助けられたいんだよ。」
「真昼もお前もか」

そう、とニッコリと微笑んだ。やはり、美人だと思った。紺の髪を揺らしながら微笑む姿、天使とはいい難いが、それでもまるで、冥界のお姫様みたいだ。赤に紺。色合い的に地獄に近いな。

「真昼はグレン、貴方に護られたかったのよ」
「翔子は」
「私もよ、私もあなたに護られたいけれど、ちょっと頼りないかな?」

なんてね、とほほに小さくキスを落として部屋を出ていった。何と言うことだろうか。もう少し強くなろうか、なんてな。