Giftigen Apfe



優しくて大きな手が俺の頭を撫で眠りの淵から掬い上げる。


「すまない、起こしたな・・・」

ゆっくりと目を開ける俺にダーク・レオナルドはすまなさそうに笑って撫でるのをやめてしまった。

もっと撫でて欲しかったけど、眠い目を擦りながら起きると膝の上にリボンの巻かれた絵本があった。

その本は『白雪姫』という文字の他に、女の子と小さな人達が描かれていた。

「・・・俺に?」

本を手に取って尋ねるとダーク・レオナルドはコクっと小さく頷いた。


「読んでやろう。」

優しい声でダーク・レオナルドはそう言うと俺を抱き上げて膝の上に座らせて本に手を伸ばしてきたけれど、俺はその手を遮って振り返った。

「大丈夫、自分で読めるよ!」

俺はそう告げるとにっこりとダーク・レオナルドに笑かけて絵本を縛っているリボンを解いた。

ダーク・レオナルドのおかげで本も読めるようになったことが嬉しくて、教えたくて、俺は最初のページを捲って声に出して読み始めた。

「むかしむかし、真冬のことでした。雪が 鳥の羽のように、ヒラヒラと天からふっていましたときに ひとりの 女王 さまがこくたんのわくのはまった窓のところにすわって、ぬいものをして おいでになりました―――」



ダーク・レオナルドは俺が読む間、ずっと静かに聞いていてくれていたけれど、時々間違えると優しい声で正しい読み方を教えてくれた。




「―――こうして、二人はいつまでも いつまでも、幸せに暮らしました。おしまい。」

少し間違えてしまったけれど無事に読み終えることができてホッとしているとダーク・レオナルドが俺の頭を撫でてくれた。

言葉にしなくても、言葉にされなくても『ちゃんと読める』って気持ちが伝わった気がして嬉しくて、撫でてくれる手を掴んで胸元に抱き寄せてダーク・レオナルドの胸に背中を預けた。

暖かくて心地好くて、満たされていくのがわかるのに、気持ちとは裏腹に正直なお腹が鳴ってしまった。

お腹が空くということは、当たり前なことなのだけど妙に恥ずかしかった。

俺がダーク・レオナルドの手を離して自分のお腹に両手を当てて俯いていると、彼は俺を後ろからぎゅっと抱き締めて「飯にするか」っと囁いてから俺を抱き上げてベッドに下ろすと部屋を出て行った。


部屋を出て行くダーク・レオナルドの背中を目で追いながら、ふっと考えてしまった。

ダーク・レオナルドが出て行ったドアから少しだけ見える暗い外は絵本に出てきた魔女もいるのだろうか?

それとも、もっと怖いものがあるのだろうか・・・
決して出てはいけないと言われるドアの外にある暗い世界・・・興味はあるけれど出てみようとは思わない。


・・・そんなことを思いながら目線を絵本に戻してパラパラと捲っていると白雪姫が王子様のキスで目覚めるページが目に留まった。

キス・・・教えてもらってからは、俺からすることはあってもダーク・レオナルドからはあの1度切り・・・

『白雪姫みたいに、死んだように眠ってしまったらしてくれるかな?』


そんな考えが頭を過り、キスをしてくれない可能性もあるけれど、どうしても試してみたくなってリンゴという赤く丸いものを探したけど部屋の中にそれらしい物は無かった。
なのでおれはしかたなく絵本を見ながら一口分欠けたリンゴの絵を描くことにした。



「出来た!」
思ったよりも上手く描けたリンゴの絵。
その出来映えに満足しながら白雪姫のストーリーを思い返して、今度はドレスの代わりにするためにベッドのシーツを剥ぎ取った。

白いから最後のページの『ウェディングドレス』って言うモノみたいに体に巻き付け、すっぽりと頭も覆ってみたけれど、ドレスになんて見えるわけもなかった。

それでも他に代わりになりそうな物がなかったので俺は諦めて枕元にリンゴの絵を置いてベッドに横になってダーク・レオナルドを待った。




不安と期待、ドキドキとワクワクを混ぜたような気持ちを押さえて待っていると、意外と早くダーク・レオナルドは戻ってきてくれた。

「ただいま」

ドアを開ける音と、聞こえてきたダーク・レオナルドの声に『おかえり』っと返しそうになったけど我慢してベッドでじっとしていた。

俺の返事がないのが気になったのかダーク・レオナルドが近付く音がし、ベッドが軋む音もして、彼の重みで沈むのが分かった。

「疲れたのか?」

ベッドに腰掛たダーク・レオナルドの優しくて大きな手が俺の頭を撫でてくれたけど、すぐに手が止まり側に置いていたリンゴの絵を手に取る音が聞こえた。

静かな沈黙が流れ、様子が気になった俺は寝たフリがバレないように薄目を開けてダーク・レオナルドの様子を覗いて見た。

彼は絵本と俺の描いたリンゴの絵を見比べていた。

よかった、ちゃんとリンゴの絵だってことは分かってくれたみたいだった。


でも、不思議そうに首を傾げるダーク・レオナルドの姿に思わず
「鈍感。」
っと小さく声が漏れてしまった。

漏れてしまった俺の声は彼の耳に届き、俺の声に気が付いてダーク・レオナルドが振り向いてしまい、俺は慌てて目をギュッと瞑った。

クックックっとダーク・レオナルドの小さな笑い声が聞こえて俺はまたそーっと薄目を開けると視界いっぱいにダーク・レオナルドの顔があり、段々と近付いてきて・・・俺はゆっくりと目を閉じた。

―――そして唇に触れるだけのキスを1つ落としてダーク・レオナルドの唇は離れていった。


俺はドキドキと煩い心臓の音を必死に無視して、お話みたいにゆっくりと目を開けて起き上がった。


ダーク・レオナルドの顔が少しだけ赤い気がして、それがすごく嬉しくて、俺は両腕を彼に伸ばしながら満面の笑みを浮かべた。





俺は絵本でしか太陽を知らないけど、きっとダーク・レオナルドの様に暖かくて優しい物だと思う。




俺をぎゅっと抱き締めてくれる俺だけの 『 太 陽 (Dark Leonardo) 』





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