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夕刻に現れたアルミンを見て、
出迎えたペトラは驚いた。
どこのお嬢様かと思った、が正直な感想だ。
頭にビジューのついた髪留めをつけ、
白いワンピースの裾を風に靡かせて
そこに立つアルミンは、
「リヴァイ兵長はいらっしゃいますか?」と
控え目に尋ねてきた。


頬を赤く染めているところを見て
何となく、エレンには言わない方がいい、と
ペトラは判断する。
エレンはまもなく台所の掃除を終えて、
そのまま夕飯の準備に取り掛かる筈だ、
此方から知らせなければ
アルミンが来たことには気付かないだろう。




「兵長は今、執務室で書類仕事をしているの。
案内するわね」



小声でそう言うペトラを見上げ、
ありがとうございます、とアルミンは
顔を綻ばせる。



心の準備は出来た。






◇◆◇◆◇◆




ペトラに案内された執務室の扉をノックする。
トントン、と2度程音を立てると、
一拍置いた後に、入れ、と中から声がした。
いつものリヴァイの声だ。

お前が欲しい、と
アルミンの耳にいつまでも残っている声よりも
幾分か固い声は、
兵士長としての務めを全うしている時の
彼の声なのだろう。
その声で部下に指示を出し、叱責し、
傷ついた兵士を励ましたりもするのだ。




「失礼します!」





声を掛けてから扉を開けば、
入って正面にあるデスクに向かい、
肘をついて書類を眺めている
リヴァイの姿が目に入る。


彼は無言で顔を上げ、此方を見て目を見開く。


今この瞬間に、
尋ねてきたのがアルミンだと気付いたらしい。




「…何してる?」




驚きを隠せないといった様子のリヴァイを見て、
アルミンは少し安堵した。
今忙しくてお前に構っている暇はない、と
言われたらどうしようかと思っていた。
いや、彼に限ってわざわざ尋ねてきてくれた部下に
そんな事は言わないだろうが。




「今日は調査前の最後の調整日でしたので、
ここに来ました。お仕事中にすみません」




「いや、いい。どうせ急ぎの用じゃない」




そう言って、リヴァイは書類を
デスクの隅にまとめた。
執務室の中は整理整頓が行き届いており、
埃ひとつ落ちていない。
アルミンは部屋の中に数歩足を進めてから、
緊張で震える手を握りしめ、何とか声を絞り出す。




「どうしても兵長に、お伝えしたいことがあって」




「…聞こう」




紅茶の礼にと彼女に贈った髪留めを、
こうしてつけてきてくれただけで、
リヴァイの心は凪いだ。

相変わらずハンジによる
エレンの巨人化実験は続いているが、
ハンジがアルミンを連れてきたのは
結局、最初の一回だけだった。
二回目の実験の時に、
アルミンはどうした、とそれとなく尋ねれば
だってあなたが訓練がどうたらこうたら言うから、
とハンジに苦笑され、返す言葉もなかったのを
覚えている。

送ってくれたお礼に
アルミンが紅茶を買ってきてくれた、と
ペトラに言われれば、
貴族の豚共の相手をさせるために
自分を連れ出したエルヴィンを恨めしく思った。
お前がくだらねぇ用事で呼び出さなければ、
アルミンから直接受け取れたのに、と。

その数日後、本部に行くついでに街に寄り、
彼女のために髪留めを買った。
兵士長であるリヴァイの給金は
一般の兵士よりも多く、
しかも当の本人に物欲がないため
金は貯まっていく一方だった。
高級品である宝石があしらわれた髪留めを
値札も見ずに手に取ったのは
それがアルミンに似合うだろうと
純粋に思ったからだ。

髪留めと共に想いを伝えると、
彼女は困惑した表情を浮かべたまま硬直した。
知り合って間もない上官の男に突然
お前が欲しいなどと言われても困るだろう。
悪いことをしたな、と罪悪感を覚え、
ここ最近は想いを伝えたことを後悔していた程だ。



しかし今こうして、彼女はリヴァイの前に現れた。


壁外調査前の最後の調整日という
調査兵にとっては大切な日に
伝えたいことがあるといって
わざわざ訪ねて来てくれた。


どんな言葉を紡ぐのか気になって
リヴァイはアルミンの薄紅色の唇を
息を詰めてじっと見つめる。




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