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無事兵舎の前に到着し、
アルミンは少しの名残惜しさを感じながらも
ありがとうございました、と
リヴァイに頭を下げた。
離れた体温を求めるように
身体が肌寒さを訴えて震えた。夜は冷える。
兵舎はまだ消灯時間を迎えておらず、
窓から明かりが溢れている。
今からなら日付が変わる前に帰れそうだ。



リヴァイは静かに頷き、
「おやすみ」と言った。


そのまま此方に背を向けて去っていく彼を見て
やはり本部に用事など無かったのだ、と
アルミンは眉を下げた。





それから第57回壁外調査までの間に、
調整日は3回あった。
1回目の調整日の日、
アルミンはリヴァイのために紅茶を購入した。
嗜好品は高価なので、
アルミンのような新兵では一缶しか買えないし、
ミシェルの店にあるものに比べたら
味も劣るだろう。
それでも何か、お礼をしたくて。

心なしか緊張しながら
アルミンはその日1人で古城に向かった。
ミカサも連れてきたかったが、
生憎調整日は班ごとに決まっている。


古城に辿り着き、アルミンはドキドキしながら
城の扉をノックした。
しかし古城はしんとしており、
人の居る気配はない。
どうやらリヴァイ班は訓練に出ているようだ。




(あー、ついてないなぁ…)




アルミンはガックリと項垂れる。
時刻はもうじき正午になる。
昼時になれば皆戻ってくるだろうか。
もう少しだけ待たせてもらおう、と
アルミンは城の庭にある花壇に腰掛け、
愛馬を撫でて静かな時間を過ごした。




(そういえば、エレンの巨人化実験…)




『置いて帰っちゃってごめん!
でもリヴァイが送ってくれたでしょ?』と
エレンの巨人化実験の翌日、
ハンジは夕飯を食べているアルミンに
声を掛けてきた。

元々そのつもりでわざと置き去りにしたんだな…と
アルミンは白い目を向けたが、
ハンジは少しも気にする様子はなく
『巨人化の条件は自傷行為だけではなく、
何らかの目的が必要だと考えられる』と
自身の推論を語り始めた。

確かに以前の巨人化を思い出すと
巨人を殺す・砲弾を防ぐ・岩を持ち上げるなど
エレンには何かしらの目的があった。
今回突然巨人化したエレンの右手は
スプーンを摘まんでいたらしい。
どうやら、地面に落ちたスプーンを拾おうとしたら
巨人化してしまったようだ。


その日はそれに納得して終わったが、
エレンはその後
班員達と上手くやれているのだろうか?


急に心配になってきて、
その不安の靄を振り払うように
アルミンは空を見上げた。



その時、数人の足音と話し声がして、
アルミンは顔を其方に向ける。
森の中から馬に乗って現れたのは
エレンとオルオ、ペトラの3人だった。

悪戯に笑うエレンとそれを怒鳴り付けるオルオ、
呆れたように2人の間に入ろうとする
ペトラの姿を見て、
アルミンはポカンとその場に立ち尽くす。

だってエレンの顔が、
同期のジャンと喧嘩をするときと
同じような顔だったから。

どうやら杞憂に終わったらしい、と息を吐くと
いち早くアルミンに気付いたエレンが
此方を見て目を丸くする。




「アルミン!!何やってんだ!?」




「ちょっとリヴァイ兵長に用事があって…。
ちょうど調整日だったから来たんだ」




今日のアルミンは兵服ではなく、
ネイビーのシャツワンピースを纏っている。
シンプルなデザインで、普段の彼女より
大人っぽく、そして女性らしさがあった。
金糸の髪と白い肌が映え、
特別飾り立ててはいないのに美しさが際立つ。




(あ、あれ…アルミンって
こんなに綺麗だったっけ?)



どぎまぎしてエレンは何も言えなくなるが、
アルミンはいつもの調子でエレンに近寄り、
「元気にしてた?ここでの生活には慣れた?」と
矢継ぎ早に問い掛けてくる。
それに答える前に、ペトラが近付いてきて
アルミンに申し訳なさそうに頭を下げた。





「兵長に用事があったの?
実は兵長、エルヴィン団長と中央に行っていて
今日はいないの。
ごめんね、せっかく来てくれたのに…」




「あっ…、そうなんですか!?
全然、僕が勝手に来たので!」




ペトラさんが謝ることじゃないです、
と言いつつも、心の中でアルミンは
がっくりと肩を落とす。




リヴァイに会えない。




確実に会えると思っていたので、
アルミンが受けたショックは大きい。
それでも無理矢理笑顔を貼りつけ、
「じゃあ、これを兵長に渡してください」と言って
紅茶の缶が入った袋をペトラに託す。




「何だよ、それ?」




「この前のお礼。ハンジさんに置いていかれて、
その代わり兵長が本部まで送ってくれたんだ」




「…へー、そうなのか」




「くぅー!さっすが俺らの兵長!!」



「やっぱり兵長って部下思いで素敵!
確かに預かったからね、アルミン!」



話を聞いて何故かテンションが上がっている
ペトラとオルオに苦笑し、
アルミンは古城を後にする。


兵長、喜んでくれるかな。




おやすみを謂われたあの日から、
アルミンの頭に浮かぶのはリヴァイのことだけで
さっきまで元気だったはずのエレンが
浮かない表情をしているのには
気付けなかった。


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